今回の講演は、広告代理店の営業担当者へのWOMM (Word of Mouth Marketing) の理解を深めるためのもので、 クライアントからWOMMへのニーズが出始めている中で、代理店の対応・認識の向上を図るのが目的で、100名以上の多くの営業の方たちに、お話をさせていただきました。
この講演では事例も含めて、WOMMの基本やポイントを説明しましたが、多くの方たちの実感を得たのは、ウォールマートの偽ブログ(Flog =Fake Blog)の事例です。これは、PR会社のEdelmanが、企業イメージの悪いウォールマートのイメージアップのために、仕掛けた偽ブログで、これがFlogであることが発覚して、WOMMにおける透明性(=身元証明)を強く訴えていたエデルマンがFlogを行ったために、ウォールマート以上にエデルマンに対する非難が高まっています。この典型的な「Bad Mouth(悪口を広めるWOM)」の事例の詳細は、私の日経BPのオンラインのコラムを読んでください。
ここで、ちょっとしたハプニング起こっています。この講演の直後、ちょうどNHKが「クチコミマーケティング」という特集で、企業のために自分のブログで商品を紹介する女子大生を取り上げましたが、その放送終了後に、女子大生のブログが「炎上」してしまったという事件です。番組は、もちろんYouTubeで見ることができます。
今回の出張で、初めて「炎上」という言葉が日本で使われていることを知り、さらにその具体的な例として、この女子大生のブログ炎上事件が起こり、日米間のブログの温度差を実感しています。この炎上も、正々堂々とした論理に基づく批判ではなく、匿名行為による感情的な発言が多かったと聞いています。日本のブロゴスフィア(ブログ圏)では、多くの見知らぬ人たちが感情的にいっせいに動くようで、匿名性の怖さが支配している気がします。アメリカでは匿名で何かすることは、そこに隠さなければならないことがあると思い、匿名行為の発言に対して、一種の胡散臭さを感じて、あまり信頼せず、それに同調することも少ないようです。ですので、「炎上」といった一斉攻撃も少ないですし、一つの感情にみんなが流されるという傾向もあまりありません。
上述のエデルマンのケースでは、CEOのRechard Edelmanのブログは「炎上」していませんが、WOMMA (Word of Mouth Marketing Association) は、11月エデルマンを90日間の保護観察下におくことを発表しました。エデルマンはWOMMAの倫理コードの作成にも関与しており、「透明性=身元証明」こそ最も重要なWOMMの倫理コードであると提唱してきた会社でもあり、その責任は重いとして、このウォールマートの偽ブログ事件を全容を調べるとしています。今後のWOMMの展開で、企業や代理店が最も気をつけなければならない点は、この上記の2つの事件に見られます。以下は、日経BPのオンラインのコラムで書いた結論ですが、これを肝に命じてWOMMを行うことをお薦めします。
旧メディアとも言うべきテレビ、新聞、雑誌の報道や記事の影響力が落ちてしまった大きな理由として、「ユーザーが記事の裏にある“スポンサーのにおい”を嗅ぎ取り、発言の中立性に疑問を持つ」点を指摘する意見がある。一方、消費者がブログを新たなメディアとして評価する大きな理由は、ブログが自分たちにより近い立場と目線で「ヒモつきでない」発言をするからではないだろうか。このポイントを理解せずに、安易に「ブログ=旧メディアの代わり」という発想に飛びつく企業は、大やけどをする可能性をはらんでいる。