Nielsenによれば4080万人が視聴した12/1のObama(オバマ大統領)のアフガニスタン戦争戦略のスピーチを見ていて、真っ先にアタマに浮かんだ言葉です。
大統領は「2008年の最も優れたマーケター」に選ばれたほどのマーケティングの巧者です。そのマーケターとしての類稀なるチカラによって、民主党内ではHillary Clinton(ヒラリー・クリントン)に打ち勝ち、本選挙で共和党のJohn McCain(ジョン・マケイン)を破って大統領になりました。就任後も、大恐慌以来の全世界経済危機の中で、効果がないと批判されながらもTARPや経済刺激策などを推進し、歴代の大統領の難問である「ヘルスケアリフォーム」の立法化に着手し、さらに地球温暖化への米国の本格的な取り組みを示し、クリーンエネルギーの推進など、枚挙に暇がないほどの多岐にわたる問題を、国民にマーケティングしています。彼を見ていると「他にスタッフはいないのか?」と思うほど、すべての問題をいつも大統領が直接国民に説明しています。もちろん、大統領以上にスピーチや説明の上手な人がいないという事実もありますが、「Accountability(説明責任)」を一身に背負った大統領を見ていると、何とまあ大変な仕事だと思います。
ただし、そんなスーパーマーケターの大統領でも、「3万人の増兵(結果合計米軍兵士の数は9万8000人)と2011年7月(18ヶ月間)に状況が許せば、米軍は撤退し始める」というアフガニスタン戦略は、簡単にマーケティングすることが出来ませんでした。スピーチ直後の大統領への民主党内および一般のリベラル派からの非難は物凄いものがあり、大統領のウエブサイトに「戦争推進のために大統領に投票したのではない」というコメントも出るほどで、反戦活動が盛んなサンフランシスコではデモもありました。また、共和党からは米軍撤退の期日をセットしたことによって、テロリストはそれを逆手にとって利用するし、米国勝利に至るまで撤退すべきではないという批判もでています。また、メディアや政治評論家と称する人たちも、負債が増え続ける米国は、米軍兵士1人に付き年間100万ドル(1億円)の費用がかかり、3万人分合計300億ドル(3兆円)をさらにまかなうことが出来ないとして、こぞって大統領を批判して、スピーチ直後の大統領はまるで四面楚歌状態でした。
私はこうしたメディアやリベラル、コンサーバティブの「一方的な非難」を目にしながら、「じゃーどうすれば、アフガニスタンをタリバンの手に渡さずに、テロリストの攻撃から米国を守り、この泥沼化しているアフガン戦争から無事に抜け出せるのか?」と聞きたくなりました。また、アフガニスタン戦争には、米国だけでなくNATOなど関係諸国も派兵しており、オバマ戦略を受けて、各国からさらに合計1万人が派兵されます。お金がないからと言って、単独行動は簡単に出来ません。また、オバマ大統領のスタンスは、基本的には選挙キャンペーンの時から変わっていません。彼は、最初からイラクではなくアフガニスタンがテロリストの主戦場であると主張して、大統領就任後もすぐに2万1000人の兵士をアフガニスタンに送っています。彼を支持して投票した人たちは、「裏切られた」と言っていますが、これも「自分たちが見たいイメージをオバマ大統領に投影して、自分たちにとって好ましいオバマ像を作り上げた結果」であると思います。
そうは言っても、アフガン大統領Karzai政権の不安定さは深刻です。今日のニュースでは、真偽は良くわかりませんが、アフガン政権の中には、マネーロンダリングをしてキャッシュを国外に持ち出そうとしているという報道があり、90%が読み書きが出来ないと言われているアフガンの警察官や兵士を、たった18ヶ月間でタリバンに対抗できるようにトレーニング出来るのか?など、問題は山積みです。イラクと違って国全体の後進性が指摘されるアフガニスタンが、どこまで米国のコミットメントに対応できるのかは見えませんが、他にBetterな方法がなかったから、3ヶ月間悩んだ大統領は決断を下したんだと思います。一度始めた戦争の引き際は難しく、簡単に「一抜けた」と止められるものではありません。
スピーチ直後の12/2の12/2のUSA TODAY/Gallup Pollの調査では、一般的には51-41%の人が、オバマ大統領の戦略を好ましいとしており、共和党支持者の56%、民主党支持者の58%がオバマ戦略を支持しています。
さらに日曜日の朝発表されたCNN/Opinion Research Corporationの調査によれば、米国民の64%は米国の安全保障のためにアフガン戦争は必須のもので大統領戦略に同意するとしており、、34%は同意せず、2%が意見はないということです。
この数字を見ると、米国民の過半数は、「今の時点で他にBetterな戦略がない以上、国家安全保障の情報を最も良く把握して、それに対応する実行能力を持つ最高責任者の大統領の決断を信じるしかない」という結論に達したということだと思います。言うまでもありませんが、国と国、あるいは国とテロリストという敵対関係の中で開始される戦争は、始める前に本当に徹底したディスカッションが必要で、一端始めたら、簡単に後には退けないというリアリティを認識することが重要です。また、戦争の代償はお金だけでなく「市民や兵士の生命の犠牲」という、とんでもなく高価なプライスタッグが付くことをもう一度国民は認識すべきだと思います。
しかし、オバマ大統領ほど、前任者から「莫大な負の遺産」を継承している歴代の米国大統領も、中々いないと思います。彼だって、時には「何でこうなるの?」とボヤきたくなることはあると思います。でも、ここはじっと辛抱して、難題に真摯に取り組んで欲しいと思います。大統領の目の下のクマがますます酷くなっています。