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サンフランシスコ・シリコンバレー在住マーケターのINSIGHT(洞察)



書籍『ひさみをめぐる冒険』から「海からの漂流者」2002年6月5日のコラム

6/10/2020

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これは18年前に書いた私のコラム「Sailing-海からの漂流者」。このコラムは、2003年発行の私の初の書籍『ひさみをめぐる冒険―サンフランシスコで暮らす楽しみ "It's an Adventure - Hisami Lives America" 』に掲載されたもの。興味のある方は読んでみてください。
海からの漂流者

昨日(2002年6月4日)遅く10日間のメキシコのSea of Cortez (Gulf of California)のセーリングのバケーションから戻りました。La Pazで過ごした10日間はまったく別の惑星にいたような気分で、まだコンピュータの画面を見ていると揺れてきます。
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サンフランシスコ空港(SFO)に着いた時は、ベイエリアの人と車の多さに呆然として、海からの漂流者のように、ポカーンとしていました。
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海水で食器や身体を洗い、40度Cの暑さと砂漠の乾燥、また夜になるとボートを吹き飛ばすように激しく吹き始めるCoromuel(南西の風)のために、デッキの上で毎晩必ず誰かが寝ずの番をしながら見守る海上生活。マングローブのラグーンで蜂に襲われ(幸運なことに蜂とは正面衝突しましたが、刺されなかったので顔にちょっと傷ができただけですみました)、鯨やイルカがボートのすぐ横でジャンプしたり、ダイブしたりするのを見ながら一緒になって嬌声をあげ、アザラシのコロニーのすごい鳴き声に耳を塞ぎながら、大いに野生の海生動物たちを楽しみました。またカイヤックやシュノーケリングで無人の島々のビーチやリーフを垣間見て、自然の中で生活する喜びを堪能し、今も海に沈む夕陽の美しさが目に焼き付いています。
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Simple is Best(シンプルが最高)

できり限り人工的なリソースを使用せず、あるものだけで生活する術も習い、今回のバケーションは私にとってまたひとつの発見の旅であったような気がします。Sea of Cortezに浮かぶ水のない小さな島に住む10人に満たない漁村や、半島内部の異常に乾いた土地にオアシスのように存在する小さな町など、普段考えもしない生活を目の当たりにして、今自分の生活を振り返っています。

Simple is Best(シンプルが最高)、つくづくこんな言葉が全てを物語っていて、自然の豊かさと雄大さに感謝と畏敬の念でいっぱい、そんな感じです。帰宅後にたまっていた550通のEmailを見て、普段自分がいかにスポイルされているかが、本当に実感できました。
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チャーターボートによる10日間のセーリング

今回のバケーションは、夫が所属するヨットクラブのClub Nautiqueが主催するツアーでした。今年の初めに募集告知が出され、最終的に夫と私を含む3組のカップル(6人)が応募して、クラブのインストラクターのエリザベスがスキッパー(キャプテン)としてグループを引率することが決まりました。その後出発の1ヵ月前から、メンバーの顔合わせとバケーション中のセーリングのコースやアクティビティ検討のための会合が開かれ、また事前にお互いの親交を深めるためにディナーも開催されました。確かに全く知らない人間同士が、7日間ボートの上で食料や水を持ち込んで共同生活するのですから、事前の準備は周到にされるべきです。

ただ漠然とバケーションを考えていた私は、食事や飲み物の種類や量の事前予約、衣類や安全装備、所持品の確認など、さまざまな準備に費やす時間とエネルギーに驚き、さらに今回の旅行は自然の中で暮らすサバイバル生活に似た危険を伴うものであることも改めて認識しました。

特にSean of Cortezの島々は、自然保護の下に環境破壊につながる人工物の持ち込みは一切禁止されています。そのため食器や身体を洗う洗剤はすべてオーガニック、プラスティック類はすべて持ち帰るという規則なので、ボートの中ではいかにごみを出さないか、さらにいかに持ち帰りのごみを収容するかが大きなポイントとなりました。
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セーリング三昧の引退したシリコンバレーのミリオネア

参加した3組のカップルは、各々個性的なキャリアと経験をもつセーリング好きの人たちです。その中のひとり50代後半のグレッグは、ポーランド生まれでスウェーデンからアメリカに移住し、初期の頃のシリコンバレーでコンピュータチップのビジネスで成功を収めたミリオネアです。

彼はビジネスの世界からリタイアして、生活をどんどんセーリングにシフトしている最中です。グレッグのボートは、ヨットと呼ぶのにふさわしい100万ドル以上の価値のあるフランス製の美しいJeanneau 52です(通常アメリカでは日本で「ヨット」と呼ぶ船を「ボート」と呼んで、非常に高価な船を「ヨット」と呼びます)。

彼はベイエリアとスウェーデンにヨットを持っており、平均的なベイエリアのSailor(船乗り:日本では「ヨットマン」と言う言葉は、アメリカで使いません)とは違うレベルで、セーリングを楽しんでいます。すでにメキシコにセーリングのチャータービジネスのための土地を購入しており、後半生は全てをセーリングにつぎ込む予定です。また彼はこれから家族と一緒にSFから南太平洋へ半年間の航海に出かける予定で、その準備を楽しそうに語っていました。

夫をすっかり気に入ったグレッグは、飛行機代も食事代もすべて出すからぜひCook Islandsへひさみと一緒に飛んできてほしい、一緒にトンガやタヒチを回ろうと、真剣に夫を誘っていました。夫は、3ヵ月間の南太平洋無料セーリングの申し入れに気持ちがフラフラとなったらしく、考えてみると答えたそうです。
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家族のようになったバケーション仲間

また元Navy(海軍)でベトナム戦争の経験のある50代半ばの弁護士ボブは、今後は歴史の先生になるためにPh.D(博士号)をとろうとスタンフォード大学で勉強している最中です。彼の妻のジーンは、ドットコムサバイバーとも呼べるスタートアップ企業の副社長で、異常に忙しくストレスのたまる仕事しながら、セーリングの時だけは全てを忘れて自然を楽しむ料理好きな女性です。

Sea of Cortezでは夕陽が沈んだ後は、いつもこういうStory Teller(物語を語る人)たちが、順番に世界中で経験してきたさまざまな出来事を話し始め、食事とワインがどんどん進んで興味深いストーリーに満ち溢れたディナータイムでした。セーリングが好きという共通点だけをもつ他人同士の7人が、狭いボートで7日間暮らすことに、最初はちょっと遠慮や気づかいがありましたが、2日3日と過ぎていくうちに段々みんなの気持ちが家族のようになってきて、彼らが今ここにいないのが不思議な気分です。
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40年ぶりに太平洋を渡ってきた本物の船乗り

このバケーションの1ヵ月後の7月17日、本物の船乗りの63歳の堀江謙一さんが日本からゴールデンゲイトをくぐって40年ぶりに太平洋を単独航海してきました。地元紙では「Better with age」と題し、23歳だった堀江さんが40年前に太平洋を一人ぼっちの航海でSFに来た時と同様に、温かいもてなしの記事が掲載されていました。
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最初の航海当時、堀江さんは英語もしゃべれずビザも持たずにきて、政府移民局と入国で大いにもめました。それを当時のSF市長Gorge Christopherが、堀江さんの単独航海の勇気を称えて30日のビザを発給し、名誉市民として大いに歓迎したというストーリーも紹介されています。今回の航海は年齢とともにすばらしくなる堀江さんと題して、さらにその勇気を賞賛しています。
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SFと堀江謙一さんの再会

彼の最初の「マーメイド2世号」は今でもSFの海軍博物館に保存されています。7年前にアメリカに移住してきた私は、最初に堀江さんのボートの小ささに驚き、またその小さなボートで5270マイルの太平洋を94日間ひとりで航海してきた堀江さんの勇気を、日本人として大いに誇りに思ったことを記憶しています。

彼も40年前のSFで受けた温かい歓迎ともてなしが、今でも心に残るといってSFとの関係を強調しています。今回も外洋からゴールデンゲイトをくぐるのが難しく潮流に押されるようにくぐりぬけましたが、40年前にやはり同じようにゴールデンゲイトの外で漂流していた堀江青年を発見して助けたBill Fisherが、彼を迎えるために船でゲイトに向かい、お互いに再会を喜んだようです。
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未来を感じさせる堀江さんの新しいマーメイド3世号


今回のボートはサントリーの後援らしく名前は「モルツ・マーメイド3世号」。全てリサイクル素材で作られており、アルミやソーダ缶、ウィスキーの樽で使用されたオーク材などサントリーらしい素材を用い、通常ボートで使用されるディーゼルなどの化石燃料の代わりにRenewable(再生可能)な燃料電池を使用、またサテライトを使ったGPSなどのハイテクノロジー装備による航海でした。
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こうした新しいコンセプトでの航海自体が、堀江さんの未来志向とチャレンジ精神を大いに表しており、私も今後の環境を考えたセーリングライフにおいて、燃料電池によるエンジンをぜひ使用してみたいと思っています。
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63歳は引退には若すぎる

年堀江さんのコメントで、「今回が最後の航海ではない。63歳は引退するには若すぎる」という言葉がクローズアップされており、私を含めてベイエリアの人たちは、彼のその言葉と態度に非常に共感してインスパイアされました。

日米間で感じることは、こうした民間の人たちの交流の重要性です。日本の歴代の首相や外務大臣がベイエリアに来た時でも、こんな大きな新聞記事の扱いはありません。人の心を感動させる生き方そのものが、日米間の垣根をらくらくと超えるのだなと実感しています。堀江さんに勇気付けられた船乗りのはしくれとしては、その堀江さんをサポートするサントリーに敬意を表して、今日の気分は「堀江さんに乾杯」という感じです。
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追記:その後の仲間のコトをここに記します。書籍の中の全ての名前はプライバシーを考慮して仮名で書きました。

1)南太平洋のセーリングの準備をしていたグレッグは、準備の最中に眼球に癌細胞があることが分かり、セーリングを断念して治療に専念したが、その後しばらく経ってから亡くなってしまった。私達夫婦は彼の52フィートのJeanneauに、彼の家族と一緒に乗り込み、よくSFでセーリングした。私の亡くなった母を初めてSFのベイでセーリングを連れ出した時、グレッグの52フィートのヨットでセーリングをしており、2012年我々は37フィートのフランス製のセールボートBeneteau を買ったが、母に「随分小さい船だね」と言われたことを思い出す。グレッグのコトを思い出すと涙が出る。

2)ドットコムサバイバーのジーンは、このSean of Cortezの航海の後、2005年私達夫婦が15日間かけて、SFからハワイのマウイ島まで太平洋を半分航海したボートを、ハワイからSFまでをクルーとして運ぶという帰りのセーリングをしている縁があった。さらに驚いたことは、昨年私達夫婦がSt Georgeに家を購入したが、このジーンとその夫のボブが同じコミュニティに3年前から住んでいるという奇遇も起きた。
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3)堀江謙一さんのその後の冒険は継続しており、彼はヨットで世界を3周、太平洋を8回横断。1962年、23歳の堀江さんは94日間かけて世界初の太平洋無寄港単独横断。その後ソーラーパワー(太陽電池)のボートで、足漕ぎボートで、アルミ缶リサイクルのボートで、生ビールの樽を利用したヨットなどで、冒険の歴史を紡いでいる。2008年には、波の力だけを動力とするウェイブパワーボート(波浪推進船)「サントリー マーメイドⅡ」号でハワイ~紀伊水道の航海を成功させた。風力、人力、波力、太陽光という四つの自然の力それぞれを推進力としたヨットやボートで数々の冒険航海を制覇したのは、世界で堀江さんただ1人。
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    大柴ひさみ

    日米両国でビジネス・マーケティング活動を、マーケターとして、消費­者として実践してきた大柴ひさみが語る「リアルな米国ビジネス&マーケティングのInsight」

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