米国民は、「ウォールストリートの強欲な文化(経済危機の招いた責任者たちが平気で何百万ドルのボーナスを受け取れるシステム)」に関して、怒りの「Tipping point(臨界点)」に達したようで、そのトリガーとなったのは、AIGのボーナスです。昨年、恐竜のように巨大化したグローバルな保険会社AIGは、この崩壊による影響の大きさを考えると救うしかないという、政府と議会の判断で、救済資金1兆8000億ドル(180兆円)以上が支払われました。この崩壊の原因となった、危険なファイナンシャル取引を行っていた人間に、「AIGに優秀な人材をつなぎとめておくために(他企業にAIGの機密情報を持って移らせないためですが、すでにAIGを離れた人間もこの中に含まれています)ボーナスを払った」という事実は、「納税者の横っ面を張り倒す」ようなものです。AIGは、2008年四半期の損失が617億ドル(6兆1700億円)という米国企業史上最大の損失を記録しており、「ここまだ破綻したビジネスを行った人間が何で優秀なんだ、そんな人間は解雇すべきだ」と言う声が起こるほど、国民の怒りは「キレル」段階に達しています。これに便乗、あるいはこれを煽っているのがメディアや政治家で、オバマ大統領も含めて、全員が怒りの発言をしています。
私は、もちろんこのAIGのボーナスは馬鹿げた話だと思いますが、これ以外にゴールドマンサックス、BOA(バンクオフアメリカ)、メリルリンチと、多くの金融各社のエグゼクティブたちは、AIG以上のボーナスを2008年のパフォーマンスの結果としてもらっているというニュースも耳にしており、AIGは単に「強欲なウォールストリートあるいは金融業界のポスターチャイルド」でしかなく、これを生み出したウォールストリートのカルチャーは、全然変わっていないという結論になります。また、もっと深刻な問題は、議会がこうした救済資金を受けている企業へのWatch Dog(監視の犬)の役目が果たせず、「自分たちが倒れると米国経済は崩壊する、あるいは法的に違反をしていないアクティビティを妨害するならば、政府を訴える」という脅し文句に、オバマ政権も議会もなんら先手を打っていなかったという現状です。議会はこのAIGの許すべからざるボーナスを取り戻すためにどんな手でも使うという姿勢で、すでに下院は、政府から50億ドル(5000億円)以上の救済金を受け取った企業が支払うボーナスに関して、90%の税金をかけるという法案を、民主党・共和党も含めて328-93で通過させて、つぎに上院の通過を待つというところまで行っています。これは、憲法違反であるという非難のある法案で、金融業界のエグゼクティブたちへの「復讐」のようなカタチとなって現れています。
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