- Change vs. Experience(経験を盾にして、変革を求める米国民の声を読み間違えた)
- War Vote(イラク戦争開始への賛成投票。さらにそれが間違いであると認めなかったこと)
- Dysfunctional Campaign(戦略ミスと内部分裂で機能しなかったキャンペーン)
- Overconfidence(クリントンブランドへの過信)
- Bill Clinton(元大統領ビル・クリントンが巻き起こした舌禍)
- Sexism(女性差別のカードを引いた)
今日はこの中で、第2番目の理由について書いてみます。
イラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を保有するという疑惑に対して、国連の無条件査察を受け入れなかったために、2003年3月19日米英中心にした連合軍がイラクに参戦しました。詳細は別にして、2004年10月アメリカが勝利宣言を行った後、派遣された査察団は、「大量破壊兵器が存在しないこと」を報告して、その後さまざまな証言の中で、ブッシュ政権が当初からこの事実を知りながらも意図的な情報操作をして、開戦に踏み切らせたという疑惑が生まれています。また、戦犯として処刑されたサダム・フセイン大統領とアルカイダとの関係を証明する証拠も発見されず、米国民にとっては、この戦争は「参戦理由のない戦争で、イラク国内の宗教的泥沼に足を踏み入れた」という、大きな不満を呼び起こしています。多くの市民や兵士の死傷者数の増加、さらに莫大なコスト(戦費)は、イラクからの脱出の足がかりのないブッシュ政権への批判を増大させています。
こうした背景の下で、昨年大統領候補選挙がスタートしました。Obama(オバマ)の最も大きなCredential(クレデンシャル:資格推薦状)は、「参戦投票において、自分は最初から反戦を唱えた」という点です。当時は、911の直後で、テロ攻撃への不安が渦巻く中、ブッシュ政権、共和党、民主党のほとんどの人たちが、「対テロ対策」のために、「イラク戦争への参戦を支持する」というムードが蔓延していました。クリントンもご多分に漏れず、賛成投票を投じており、これが今回の予備選で大きな足かせとなって、彼女の「Judgment(判断)」に関する疑問と批判を生じさせました。
ここでのポイントは、彼女はこの「戦争参戦への賛成投票」の「非」を、キャンペーン中に認めなかったことで、何回も言い方を変えて(ある意味で詭弁)、彼女は自分の非を是正しようと試みています。これが、実は大きな誤算で、彼女同様に賛成投票をしたJohn Edwards(ジョン・エドワーズ)は、はっきり自分の非を認めて、後悔の念を表明したのとは異なり、「言い逃れ」をしようとしたクリントンは、「信頼性」を失ってしまいました。
アメリカ人は、「失敗を経験と考える」ので、過ちを素直に認めて、この失敗を活かして、大きく成功する人を尊敬します。シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト(VC)は、失敗を一度もしたことがないアントレプレナーには投資をしないという暗黙のルールがあります。理由は簡単で、大きな見返りを期待するVCにとって、大きな成功をもたらすアントレプレナーは、「リスクをとる(=失敗を恐れない)人」だからです。
米国企業のリスクマネジメントで最も重要なことは、失敗をした際に、即座に行動を起こすことと、真摯な態度でその失敗を認めて迅速に修復作業にかかることです。「起きてしまったことの言い訳」をクドクドされることは、誰もが最も嫌がることです。クリントンの本当のミスは、ミスジャッジをしたことを認めない頑固さと、言い訳で逃れようとしたAttitude(態度)にあったと思います。
ただし、言い方を変えると、政治経験が浅いオバマが民主党大統領候補になれた最も大きな要因は、「反戦投票」にあり、彼のこの「Judgment(判断)」がなければ、彼はクリントンに勝てなかった可能性もあり、クリントンの「賛成投票」は大きな代償を払ったといえます。