ひさみをめぐる冒険
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ひさみをめぐる冒険
サンフランシスコ・シリコンバレー在住マーケターのINSIGHT(洞察)



GoogleのAlphabetは「Change Agent」へと変身するためのものなのか?

8/13/2015

 
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今さらいうまでもなく「知の巨人 - P. F. Drucker教授」の考え方は、常に先々を予見しており、どの言葉も至言という表現がぴったりで、示唆に富んでいる。昨日のGoogleのホールディングカンパニーAlphabet設立のニュースを聞いて、改めてドラッカー教授の著書「Next Society(ネクスト・ソサエティ)」に出てくる「Change Agent(チェンジ・エージェント)」のことを思い出した。

創業者のGoogle Boys(Larry Page & Sergey Brin)の2人がどこまでドラッカー教授の言う「チェンジ・エージェントへの変身」を意識したかどうか不明だが、以下は、ダイヤモンド社刊の上田惇生訳「Next Society (ネクスト・ソサエティ)」の第1部第7章に出てくる文章で、これをを読み返すと、彼らのアタマに、こうした考えがよぎったような気がする。

「チェンジ・エージェントたれ」
組織が生き残りかつ成功するためには、自らがチェンジ・エージェント、すなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである。経験の教えるところによれば、既存の組織にイノベーションを移植することは出来ない。組織自らが、全体としてチェンジ・ エージェントへと変身しなければならない。

そのためには、
第1に、成功していないものはすべて組織的に廃棄しなければならない。
第2に、あらゆる製品、サービス、プロセスを組織的かつ継続的に改善していかなければならい。すなわち日本でいうカイゼンを行わなければならない。
第3に、あらゆる成功、特に予期せぬ成功、計画外の成功を追求していかなければならない。
第4に、体系的にイノベーションを行っていかなければならない。

チェンジ・エージェントたるための要点は、組織全体の思考態度を変えることである。全員が、変化を脅威ではなくチャンスとして捉えるようになることである。

説明の必要もないぐらいに、よく知られた考え方だが、私が改めて注目したのは「変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである」という指摘である。これは、成功し続けている組織(=企業)が中々実行できない部分で、これを実行できなかった企業は、俗に言う「大企業病」に陥る。この症状は日米を問わず、世界中に蔓延するビジネス疾患で、大きく成長した企業が一度はこの病理に蝕まれ、うまく脱しきれる場合もあるが、脱しきれずに、ビジネスの成長がとまり、市場の変化に対応できず、沈んでいく、大企業も多々ある。

Googleは、Alphabetの傘下に「Moon Shot Projects(月旅行のように野心的なプロジェクト)」と呼ばれる「Google X Lab」、「Calico」、「Life Sciences 」といった、自律走行車やバイオテクノロジー分野の革新的な事業を組み入れて、本体のインターネット事業サービスから切り離す。CEOにはPage、プレジデントにはBrinが就任して、本体のGoogleから独立して運営していく。このニュースを受けて、Googleの株価は昨日4.10%増の$690.30と上昇した。投資家は、この経営判断を、Warren BuffettのBerkshire HathawayスタイルのGoogleのコングロマリット化とみなし、先が見えにくくInnovativeであるがRiskyな「Moon Shot Projects」が、いつでも切り離し可能となり、さらに事業形態の「Transparency」が高まると、好意的に判断したようである。

今後のAlphabetの動きで、様々な評価が出てくると思うが、私は創業者2人にとって、「Innovation」の持つ意味は大きく、広告収益に依存する既存のGoogle本体のビジネスの中で、彼らがやりたい「革新的な事業領域で革新的な変化」を起こすことの難しさを実感し、組織自らを「チェンジ・エージェントへ変身すべく」、Alphabet創設を選択したのではないかと思う。また、これは言い換えれば成功した大企業が必ず陥る「大企業病」への「危機意識」で、それを防ぐためには、「自らが変化する必要性に迫られた」ともいえる。

私は1999年10月集英社の雑誌「BART」の取材のために、編集者と一緒に日本人で初めてBrinに直接インタビューした経験がある。Googleはその年の8月2500万ドルの資金をVCから調達して、Mountain Viewのオフィスに引っ越してきたばかりで、当時24歳のBrinの部屋には段ボール箱や自転車が置いてあり、スタンフォードの学生の部屋みたいだったのを記憶している。取材後に編集者と2人で「Googleってとんでもない企業になると思う。何とか彼らに投資できないかなあ?」と、暗い駐車場を歩きながら話しあったことを思い出す。あれから16年、まさに予想したとおりになり、あの時の会話にもっと真剣に取り組めばよかったとつくづく実感する。

ドラッカー教授が指摘するように、企業は「チェンジ・エージェント」であり続けなければ、失墜の可能性を常にはらむ。組織全体およびリーダーとなるべき経営者の「変革者」の意識が欠落すると、どんなに優れた企業であっても、成長は鈍化する。GoogleのAlphabet創設は、少なくとも将来を見据えたProactiveな経営判断で、これによって今後示されるGoogleの革新性を、ぜひこの眼で見たいと思う。それは多少でもGoogleと歴史的な行きがかりのある、私の個人的な想いでもある。






日本語にはない「Responsibility」と「Accountability」の違いとは?

8/10/2015

 
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なぜか、先週から英語の“responsibility” と “accountability”という言葉がアタマをぐるぐる回っている。辞書ではともに「責任」と訳されて、「accountability」は「 説明責任」といった注釈がついているが、英語本来の意味からすると時制とその用法に違いがある。

•  「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在を示す。
•  「accountability
」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任を表す。


また、この2つの言葉の持つ、もう1つの側面は以下のような時に使われるという用法の違いも大きい。
•  「responsibility」:「誰の責任であるのか?」という時に使われる。
• 
「accountability」:「誰が責任を取るのか?」という時に使われる。

英語では以下のように説明されている。
•  「responsibility」:Responsibility may refer to: being in charge, being the owner of a task or event.
•  「accountability」:In ethics and governance, accountability is answer-ability, blameworthiness, liability, and the expectation of account-giving.

以下の英語の説明は的を得ていて、「responsibility」は他の人と共有することは可能だけど、「accountability」は他の人と共有できないという点が大きな違いだという指摘は納得できる。

The main difference between responsibility and accountability is that responsibility can be shared while accountability cannot. Being accountable not only means being responsible for something but also ultimately being answerable for your actions. Also, accountability is something you hold a person to only after a task is done or not done. Responsibility can be before and/or after a task.

 日米間のビジネスで、この「責任」という言葉に関して、かなり大きな温度差を感じる。米国ではまず真っ先に、「このプロジェクトあるいはタスクは誰々が責任者である(役職に関係なく)」ということを全員に明示して、彼あるいは彼女を中心にプロジェクトがスタートする。日本ではそれとは異なり、「まず担当者(=責任者とは決して言わない)」を紹介されて、部署のチームメンバーの構成と紹介が始まる。もちろん、プロジェクトは「担当者」が「窓口」となり進行していくが、「責任を取る」という表現で「accountability」を背負う人が不明のままに推移するパターンがかなり多い。私が突っ込んで「責任者(=意思決定者)は誰ですか?」と質問すると、「あえて言うならば部長(=上司)になります」という答えが返ってくる。ただし、長い間プロジェクトを一緒にしてきても、「その部長」が意思決定をした様子はなく、また滅多に会うチャンスもなく、契約書の「部長のサインあるいは印鑑」のみしか、私たちは知らない場合がよくある。

 日本のビジネスのやり方は、「責任」を決して個人に落とし込まず、「部門、部署、チーム」といった人格を持たず「責任所在が曖昧な組織」に紐付けて、実践することが大きな特徴で、「個人のがんばりの総和」ともいうべきものが、この不思議なビジネスエクササイズを支えている。またあえて「Job description」も明解にしない理由も、部門を越えてお互いが支援できる融通さ(フレキシビリティ)につながっていると思う。私は別にこうした日本的なビジネスの仕方を悪いとは思っておらず、日本の企業の間では十分通用するやり方で、それで成功しているときは問題はないと思う。ただし、コトが悪いほうに転んだ際には、このやり方では、「なぜ、こういうことが起きたのか?これは誰が責任を取るのか?」という「accountability」が不明のまま、原因究明が行われず、同様な失敗を今後も繰り返す可能性が高いという点は指摘したい。

 日本には、「傘連判状」という特殊な署名形式がある。江戸時代に農民たちが一揆を起こす際に、誰がリーダーであるかをわからなくするために、傘が開いたように円形状に順不同に署名するもので、真ん中は「空(何も書かれていない)」状態になっていた。当時一揆のリーダーは打ち首獄門や磔刑など厳罰が処せられたために、「責任者を隠す」ために利用されていたもので、「accountability」という「誰が責任を取るんだ?」という部分を、最初から不明確にし、尚且つ署名した人の上下関係まで曖昧とするものだった。

 日本での昨今の企業の不祥事をつらつら眺めていると、ずいぶん多くの人たちは「accountability」と「responsibility」の違いを認識していないということを実感し、さらにこうした企業文化の中には、この「傘連判状」の遺伝子が無意識のうちに埋め込まれているのではないのか? という疑問すらわいた。あまりにも「空」な状態で「責任を説明されても」、誰も納得できないし、「傘の中」に署名した以上は、「すべての人に責任がある」という自覚が必要だと思う。ビジネスにおいては、往々にして英語的なアプローチの方が、物事がクリアになる場合が多い。私個人としては、明解に「accountability」と「responsibility」を使い分けて、「責任」の意味を考えながら行動したいと思う、しんどいけれども。

    大柴ひさみ

    日米両国でビジネス・マーケティング活動を、マーケターとして、消費­者として実践してきた大柴ひさみが語る「リアルな米国ビジネス&マーケティングのInsight」

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