- 「竜の柩(1)正邪の顔編」高橋克彦
- 「竜の柩(2)ノアの方舟編」高橋克彦
- 「竜の柩(3)神の星編」高橋克彦
- 「竜の柩(4)約束の地編」高橋克彦
- 「竜の柩(5)心霊日本編」高橋克彦
- 「竜の柩(6)交霊英国編」高橋克彦
- 「明治天皇(一)」ドナルド・キーン
- 「明治天皇(二)」ドナルド・キーン
- 「明治天皇(三)」ドナルド・キーン
- 「明治天皇(四)」ドナルド・キーン
- 「父子鷹(上)」子母澤寛
- 「父子鷹(下)」子母澤寛
- 「燃えよ剣(上)」司馬遼太郎
- 「燃えよ剣(下)」司馬遼太郎
私は異常なくらいに子供の頃から、歴史小説が好きで、日本出張の際に必ずこの手の歴史小説の文庫本を買い込んで、一気に読み干します(読み干すという言葉は、日本の歴史小説に飢えている私が砂漠で水を求める旅人のごとく、歴史小説をむさぼり読む気分を表しています)。
今回は、今まであまり注意を払わなかった「明治天皇」と「新撰組(燃えよ剣)」を読んで、従来私に欠けていた幕末・明治維新への別な視点を得ることが出来ました。特に、ドナルド・キーンの力作「明治天皇」は、個人的な資料のほとんどない明治天皇を、公式記録を丹念に読み込み、天皇が作成した和歌を手がかかり、天皇の想いや人物像を描いており、改めて明治天皇の果たした役割や意味を考える良い機会でした。象徴としての戦後の天皇に慣れ親しんでいる私にとって、幕末から明治維新という歴史の歯車が激しく回った革命の時代に、いかに明治天皇が多くの政治的判断に直接関わっていたかということを改めて実感しました。極端な攘夷主義者で、西欧人を極度に嫌った孝明天皇の皇子として、1852年に生まれた天皇は、14歳で即位しますが、京都の御所で女官たちに囲まれて、時にはお化粧をしていた明治天皇が、明治維新、廃藩置県、大日本帝国憲法制定、議会開催、日清・日露戦争と、激動の時代を立憲君主国日本の天皇として、後に諸外国から「明治大帝」と言われるほど高い評価を得たという事実を、改めて認識して不思議な感銘を覚えました。1つ面白いと思ったことは、明治天皇の皇后である昭憲皇太后が、ある時期から和服を着ないと決心し、それから一度も和服を着ないという事実です。もちろん、日本の近代化を諸外国に知らしめるために、鹿鳴館ではみんな洋服を着用して踊っていた時代ですが(西欧人はサルが洋服を着て西洋人の真似をしているとして大いに蔑視していたそうですが)、彼女は、和服は戦国時代に生まれた服装で、もっと古い奈良朝の服は洋服に近いものだったと考えたらしく、和服をあっさり捨てたようです。歴史小説はいろんなことを教えてくれます。
「燃えよ剣」の主人公、土方歳三は、武州多摩の出身で、実家の国分寺近くに関連した土地の文化を垣間見ることが出来て、興味深いものがありました。徳川300年の太平の中で飼いならされた旗本や他藩の官僚化した武士とは違う、百姓あがりの新撰組の主役たちが、遠い祖先ともいえる関東の坂東武者を思わせる荒々しい気風で、幕末の風雲時に、いかに「真の武士」になろうとしていくかが、改めてわかり、感慨深いものがありました。
子母澤寛独特のタッチで、描かれる「父子鷹」は、勝海舟の父親、勝小吉を主人公に親子の交流を描いていますが、彼の語り口がいかにも江戸っ子らしいので、思わず私の亡くなった父を連想して、涙ぐんでしまいました。海舟の子供時代からの英才ぶりと、父、小吉の無学(文盲)の対比、それを取り巻く江戸の下町の人たちの機微が何とも暖かい気持ちにさせてくれたお話でした。
最後に「竜の柩」ですが、これは、言ってみれば、私にとっての「Harry Potter and the Deathly Hallows」といった感のある本です。 最新版の「ハリー・ポッター」は、米国では24時間で830万部売れましたが、これは1時間ごとに30万部、1分ごとに5000部以上が売れたことを意味し、金額に直すと2億5000万ドルというとんでもない売り上げになります。世界中のハリー・ポッターファンは、ハリーポッター関連のコスチュームを着込んで、7/14の土曜日の深夜12時に書店で発売されたファイナルバージョンを購入するために並びました。この週末はハリー・ポッターマニアの子供たちが、携帯電話でのおしゃべりやメールを一切行わずに、700ページ以上の本を、寝食を忘れて、必死になって読んだと報道されています。
このハリー・ポッターを読む子供に近い状態で、私は「竜の柩」6冊を一気に読んでしまいました。「古事記」、「日本書記」、「ピラミッド」、「ノアの方舟」、「ムー大陸」、「アトランティス」、「キリスト教、仏教、ヒンドゥー教etc.」、「モヘンジョダロ」「シュメール文明」、「タイムトラベル」、「パラレルワールド」、「交霊術」など、私がのどを鳴らすようなさまざまな要素をてんこ盛りにして、天才作家高橋克彦の優れた分析力と空想力でまとめあげた壮大な伝奇小説です。思わず、「こういうのを小説って言うんだ」と、痛感しました。彼の凄さは、「歴史」と「伝説」を見事に重ね合わせて、読者をその高橋ファンタジーワールドに一気に引きずりこむところにあると思います。
高橋克彦の魔力にかかった私は、寝る時間を惜しみながら、一気に読んで、6巻でもまだ満足できず、もっともっと読みたいと中毒状態で、この小説に魅入られてしまいました。ハリー・ポッターは7巻めがファイナルですが、「竜の柩」もあと一冊、ファイナルバージョンを書いて欲しい、これが中毒患者の本音です。