23年間スーパーボウルの広告主であったペプシコは、今年はその出稿を取りやめて、社会貢献を中心とした「Pepsi Refresh Project」に2000万ドル(20億円)を使い、一般の人たちの投票によって選んだチャリティ活動を毎月130万ドル(1億3000万円)寄付していくと宣言しています。詳細は日経BPの私のコラム「米国ネットマーケティング茶話」の最新コラムにまとめていますので、ぜひご覧ください。
こうしたスーパーボウルの卒業生もいれば、復活するクライアントもいます。その一つは12年ぶりに戻ってきたインテルです。確かに、かつてはインテルの独占状態だったチップやマイクロプロセッサーの分野も競争が激化しており、ある意味でインテル・ブランドの再クレームをマスオーディエンスにしたいというのは本音でしょう。その場としてはスーパーボウルは適切なかもしれません。
すでに今朝Tweetしましたが、事前に論議を呼んでいるのが、CBSがゲイ対象のデイトサイトManCrunchの男性同士がキスするCMを、全国放送の基準に適合しないという理由で拒否した件です。すでにオンラインにこのヴィデオがあがっていますが、ゲイに対する偏見の論議を別にして、広告のレベルとしは単純すぎて、ちょっとこれはないなと思える内容です。
このManCrunchの一件は、2億8000万ドルの広告費を払う能力もないのに、否定されるのを承知でわざと論議を呼んでパブリシティ効果を狙ったという批判もあり、弱小企業のゲリラ的なマーケティング戦略の可能性もあります。すでにYouTubeでは、33万2500以上のビューもあがっており、彼らの意図はそれなりに達成されたのかもしれません。
これとは別に、米国の論議を二分する社会問題である「アンチ中絶広告」のオンエアを、CBSは許可しました。これは、反中絶を訴えるクリスチャン団体「Focus on the Family」が広告主で、生命の危険を理由に医師に中絶を薦められたが、あえてそれを押し切って出産を決意したNFLプレイヤーTim Tebowの母親が登場する「反中絶広告」です。女性の出産と中絶の選択の権利を守る女性団体からの抗議も寄せられており、母親が出産を決意した1987年のフィリピンでは中絶は違法で、違反者は6年の懲役が課せられる状況下で、医師が中絶を薦めたことは疑問だとする論議もあります。こうした事実を広告がきちんと説明しないでオンエアしたら、FTCやFCCへ訴えるという声も上がるなど、ヒートアップした論議となっています。
スーパーボウルの広告は、確かに時代を反映して、常にさまざまな論議を招いてきましたが、広告主がここで考慮しなければならないのは、視聴者がどんな気分でこの番組を見ているかという点です。マーケターとして考えると、米国民がビールやワイン片手にパーティ気分で「楽しもう」と思っている場に、いきなり「中絶」のような一言では片付かない宗教観や価値観の違いに根ざしたシビアな社会問題を持ち込むのは「場違い」であるという点と、そういう広告と視聴者は、その日は「エンゲージできない」という点です。
「場の空気を読む」
これはマーケターの最もケアしなければならない部分で、それが読めない広告主は、2億8000万ドルを無駄に使うことになります。CBSはスーパーボウルをどんな番組として位置づけているのか、経営者の立場から離れて、一消費者として考えたほうがいいと思います。子供たちが走り回る裏庭で、バーベキューでハンバーガーがグリルしているお父さんが、いきなりTV画面で「中絶問題」を見せ付けられるのはシンドイと思います。そういうシーンがスーパーボウルの典型的な場面です。それを思い描きながら、マーケティングする、これが肝要だと思います。