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ひさみをめぐる冒険
サンフランシスコ・シリコンバレー在住マーケターのINSIGHT(洞察)



失われた「The HP Way」

10/3/2006

 
今頃、ビル・ヒューレットとデイヴィッド・パッカードは「草葉の陰で泣いている」、こんな言葉を思わず言いたくなるほど、シリコンバレーの理想的な企業として尊敬されているHPは、驚くほどのスキャンダルに巻き込まれています。

HPの創設者の2人は、大学時代に強い「信頼」で結ばれ、2人で一緒に働いてテクノロジーによって社会に貢献したいという理由で、ガレージからHPをスタートさせています。彼らが目指した「The HP Way」では、「社員1人1人、仕事の一つ一つが重要で、軍隊のような上下関係を主体とする組織ではなく、上司と部下、社員と経営者が自由に議論ができる会社をつくり、社員はフレキシブルタイムで働くことができ、会社の利益を共有できる」という、「信頼をベースにした民主的な会社」をつくることを目標としました。

ところが、今回の「HP - Gate(スキャンダル)」は、この「The HP Way」とまったく逆のやり方で、会社の最高経営者たちが、ボードメンバー(役員)、社員、ジャーナリストたちのプライバシーに侵入してしまい、「ウォーターゲート」や「エンロン」という言葉が周りを飛び交い、議会の公聴会が開かれるほどのスキャンダルとして、連日マスメディアのヘッドラインを飾っています。

人間の猜疑心はつくづく恐ろしいものだと思います。前CEO・会長だったCarly Fiorina時代に発覚したボード(取締役会)のマスメディアへの情報のリーク問題は、役員同士の不信感を創出し、この「HP - Gate」と呼ばれるスパイ・スキャンダルを生み出しました。

Fiorinaに代わって会長になったPatricia Dunnは、「誰が漏らしているか」を調査するために、すでにすっかりおなじみになった「Pretexting」という、対象者のID(SSN = Social Security Number)を使って、HPの役員、社員、ジャーナリストなどのプライバシーを洗い始めました。州によってはすでに違法行為となっている「Pretexting」は、調査対象者になりすまして、電話履歴を入手するという手法ですが、カリフォルニア州もこの「HP - Gate」によって、このPretextingの問題が表面化して、すでに州知事がこれを違法行為とする法制化に乗り出しています。

しかし、HPのボードやCEOは、何を考えているか?と思わず声を荒げたくなります。それでなくても多くの犯罪に悪用される可能性のある社員のSSNを、HPは外部の調査会社に渡してしまい、さらに電話履歴という個人のプライベートな会話(私は、夫婦と言えども、お互いの携帯電話の履歴を見るのは、プライバシーに反すると思います)を入手して分析し、さらに、追跡機能をつけた「おとりのための偽の情報」をEメールで送って、調査対象者がそれを誰に転送しているかをつきとめる(実際にHPは、2人の元FBIを雇って、情報のリーク者であるすでに辞職した役員Keyworthの自宅で、メールが転送された日に、一日中彼の行動を見張っていたと報道されています)という、まさにエスピオナージの世界が繰り広げられていたようです(清掃人に変装して、ジャーナリストの建物に入り込み、ゴミ箱をあさるという案も出ていたようです)。

先週の議会による公聴会では、スケープゴートとなって辞職した会長のPatricia Dunn、現CEOのMark Hurd、シリコンバレーのテクノロジー企業の後ろ盾として著名な弁護士Wilson Sonsiniの3人は、証言にたちましたが、後の証人になるべき多くの関係者は、自身が罪状に問われることを回避するために、「Fifth Amendment」を用いて、証言拒否を行っています。すでに、Dunn以外に、HPのジェネラルカウンセルだった弁護士のAnn Baskinsが公聴会の直前に辞職し、さらにこの調査の中心的な役割を果たして、このスパイもどきの調査で成功した結果をもたらしたとして、皮肉にもDirector of Ethics(倫理担当ディレクター)に昇進したKevin Hunsakerも、先週辞職してしまいました。

冒頭で書いたビル・ヒューレットとデイヴィッド・パッカードが求めた「The HP Way」のValueに照らし合わせてみれば、このようなスキャンダルが起きるわけがなく、さらに違法行為すれすれあるいはそれを超えているという手法を、経営者たちは知りつつ、それを止めようとせずに、その手法を容認したという「倫理観の欠如」が、このスキャンダルを起こした大きな要因です。ビジネスを行う際に重要なことは、それが「違法行為」であるかどうかではなく、その企業の根本的なよりどころにたって、その企業の「倫理にかなう」かどうかが、最後の判断の基準となります。

2002年のCompaqとの合併によっておきた、当時のCEOのFiorinaと創設者の息子でさらにボードメンバーであったWalter B. Hewlettとの熾烈な戦い(彼はこの合併はHPにとって利益をもたらさないとして、合併反対に関する訴訟まで起こしました)や、同じく創設者の息子のDavid W. Packardが、合併によって1万5,000人が解雇されることによって、父親たちの求めた「The HP Way」が失われることを憂慮して、合併に反対の立場をとったことが、思い出されます。

すでに「The HP Way」は失われてしまったということは、シリコンバレーの周知の事実ですが、ここまで地に落ちるとは予想できませんでした。たった一つの腐ったリンゴによって、箱の中の全ての他のリンゴが腐ってしまうことを、思わず思い浮かべてしまうスキャンダルです。

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    大柴ひさみ

    日米両国でビジネス・マーケティング活動を、マーケターとして、消費­者として実践してきた大柴ひさみが語る「リアルな米国ビジネス&マーケティングのInsight」

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