アフガニスタン、クウェート、イラク、ヨルダン、イスラエルと、彼の行く先々での写真やヴィデオは、かなり大きなヴィジュアルインパクトを与えています。もちろん、彼が米軍兵士とバスケットボールをしてシュートを決めたシーンだけではありません。アフガニスタン大統領、イラク大統領、イラク首相、ヨルダン国王、イスラエル大統領、パレスチナ自治政府大統領、さらにおのおの国の国家安全保障担当者たちや米軍の最高司令官や指揮官、という各国の要職の人たちとの会見、またイスラエルのホロコーストミュージアムでの献花と、最新の映像は連続技で送られてきます。会見内容もしかりですが、そのヴュジュアルインパクトは、かなり大きく、米国民は、改めて、彼が米国大統領に選ばれた時のイメージをそこに投影しています。
オバマ陣営は、この中近東訪問のために、300人近い軍事専門家・国家安全保障の有識者たちをアドバイザーとして迎えて、おのおのの国を最も熟知している人たちの助言をもとに、綿密に計画して、実施しています。5カ国の軍事や国家安全保障の高官たちとの会見でも、そうした有識者たちが必ず会見に参加して、オバマがこの視察で「ミスステップ」を踏まないように、「直接現地の人たちと会話が出来る」舞台を作り上げています。
出発前に、メディアや有識者からこの視察に関して、「一つの発言が命取りになる可能性があるので、危険すぎる」、「経済問題で苦しむ国民の反発を買う」など、多くの批判を耳にしました。ただし、結果、20日のエントリのように、イラク首相からのオバマの撤退プランの支持表明、ブッシュ政権の「将来のイラク撤退の具体性をにおわす発言」や「アフガニスタンに目を向けることを示唆する発言」などが矢継ぎ早に出て、オバマの中東政策や軍事安全保障の考えへの追い風となっています。
この間、McCain(マケイン)は、このオバマへのメディアの熱狂に対して、何とかその目を自分に向けさせようとして、数々の発言を繰り返していますが、相次ぐ「失言」とお門違いなオバマへの攻撃的な発言で、メディアはかなり「あきれ果てている」といった感じです。彼はさまざまな失言を繰り返していますが、以下のような地理的な間違いが目立ち、メディアだけでなく、一般も、「思わず、彼の年齢による記憶違いか?」という、疑問もでてきています。
- チェコスロバキアの国名:1993年にチェコ共和国とスロバキア共和国に分離した国を、過去、何度もチェコスロバキアと発言。7月、6月の連続2ヶ月もこの間違いを繰り返しており、彼の最新のヨーロッパ諸国への理解を疑問視されている。
- イラクとパキスタンを取り違える:オバマのアフガニスタン訪問時にTVにインタビューされて、「アフガニスタンとイラクの国境」と発言して、最もホットなトピックスを間違えたので、周囲は困惑している。過去にもイラク訪問時に「スンニ派とシーア派」を取り違えたり、イランとアルカイダを直接結びつけるなど、重要な問題への失言で、彼の信頼性に関する疑問がでている。
一昨日は、TimeのコメンテーターJoe Kleinが、マケインの「オバマは選挙に勝つためならば、戦争に負けても構わないと思っている」という発言に対して、大統領選に出馬する人間でこんな下劣な発言は過去自分が取材していて、聴いたことがないと、強烈な怒りを見せています。
マケインは、メディアのオバマへのカバレッジの多さと好感度に不満を漏らして、「メディアがオバマに好意的すぎる」と批判しています。ただし、彼は過去の大統領選、および今回の共和党の大統領予備選までは、「Mavericks(マヴェリクス:一匹狼)」と呼ばれて、「メディアが自分の基盤だ」と発言するくらいメディアと良い関係を構築していました。今回のマケインの不満に対して、メディア側は、「マケインには注目するネタやエキサイトメントがないからだ」とシンプルに反論してます。すでにマケインが展開してるタウンホールミーティングの注目度は極端に低下しており、1昨日も2社しかメディアが参加しないというほどのひどさです。
「オバマ現象・オバマ革命」といわれるほど、アイコン化したオバマ相手に、マケインが何とかメディアカバレッジを勝ち取ろうと必死です。このあせりがさまざまな失言や失敗を招いて、ますますマケインの「Desperate(必死)な状態」が逆に目立っています。マケインは、イラクが安定してきたのはマケインが支持したブッシュ政権の「米軍増強策」によるもので、これをオバマが反対していたと、オバマを猛烈に批判しています。メディアおよび一般の反応は、「過去のことばかり言及するよりは、未来の撤退を論議することがより大切だ。その実施の可能性の有無は別にして、オバマの16ヶ月以内の米軍撤退案をイラク首相が支持したことのほうが重要だ」という風に流れています。マケインは、「スンニ派が、アルカイダに対して戦いを開始した(Anbar Awakening)のは、米軍増強策によってである(実際は増強策の発表の4ヶ月間前から始まっていた)」という、「米軍増強策」の時系列の理解も間違えており、ますます、彼に対する「信頼性」が低下しています。
ヴィジュアル面でも、マケインの最新映像は、「84歳のブッシュ元大統領と、彼の別荘で、元大統領が運転するゴルフカートに乗って、マケインが登場する」というもので、若くフレッシュなオバマの海外視察と好対照で、72歳(8月29日誕生日)のマケインの年齢を際立たされる映像でした。特にアメリカでは、通常ゴルフをする場合は、自分でカートを引っ張ります。またゴルフカートは、歩行困難なシニアが、コミュニティの中の移動に使用しており、この映像は、マケインの年齢を痛烈にメッセージとして送っています。ヴィジュアルインパクトは、文字とは異なり、視聴した時のみならず、意識化に「イメージ」として組み込まれて、長く残ります。その意味でも、私がマケインキャンペーンのマーケティング担当者であるならば、思わず「これは痛い」とつぶやいたと思います。