ハリウッドスター並みの注目度のApple(アップル)のCEOのSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)の基調講演は、やはり、Macworld Expo(マックワールドエキスポ)の超目玉です。サンフランシスコに集まった世界中のマックファンのボルテージは、ついに現実に見ることができたジョブスのプレゼンテーションと「iPhone」の登場で、最高潮に達したようです。以下は、今朝のSF Chronicleに出ていた株価の推移ですが、これ見る限りだと、マックファンのみならず、ウォールストリートも、この「iPhone」の登場に、大いにアプローズという感じです。
- Apple: 8.3%増で、終値は92.57ドルで、過去最高を記録する
- Palm: 5.75減で、株価は13.92ドル(iPoneの競合となるTreoの製造メーカー)
- Research in Motion: 7.85%減で、株価は131ドル(iPoneの競合となるBlackBerryの製造メーカー)
「iPhone」は、これからFCC (Federal Communications Commission:米国連邦通信委員会) の認可を得なければならないし、Cisco(シスコ)が保有するインターネット電話「iPhone」とのトレードマークの問題の合意も得なければならないし、宿題は残っていますが、この「Only One Mobile Device(オンリーワン・モバイル・デバイス)」ともいうべき「iPhone」のデビューは、デジタルメディアの方向性を大きく示唆する画期的なものです。Yahoo(ヤフー)の創設者のJerry Yang(ジェリー・ヤング)、Google(グーグル)のCEOのEric Schmidt(エリック・シュミット)など、観客受けする役者もステージに上がるなど、天才マーケッターのジョブスのマジックは、昨日もいかんなく発揮されたようです。
昨日の彼のプレゼンで最も重要な発言「From this day forward, we're going to be known as Apple Inc.,(今日以降は、アップルと呼ばれることになる=アップルコンピュータのコンピュータの部分を社名から落としたこと)」は、2003年10月、「iTunesのWindows対応」の発表の時の発言「Hell Froze Over(地獄も凍りつく=絶対にありえないことが起きた)」の帰結です。3年3ヶ月かかって、昨日、正式にアップルコンピュータは、コンピュータメーカーからデジタルメディア企業へと進化し、この分野におけるビジネス・テクノロジーのインテグレーションのリーダーとして、大きなメッセージを世界に向けて発信しました。
こうしたアップルのお祭り気分に暗い影を投げかけているのが、200以上の会社が調査対象となっているストックオプションスキャンダルです。年末に、ゴア元副大統領も参加するアップル社内のストックオプション調査委員会は、ジョブズも含めて現在の経営幹部は、一切法的に問題になることに関係しておらず、ジョブズはストックオプション問題で経済的な利益を受けていないと発表しています。ただし、このスキャンダルはまだまだくすぶっており、先週もアップルの株主からストックオプション問題に関連した訴訟が起こされ、社内調査委員会の報告だけでは、SECや米司法当局のジョブスへの疑惑の目は消えていません。
ビジネスウィークの1/15号でも、「Is Steve Jobs Untouchable?(スティーブジョブズはアンタッチャブルなのか?)」というタイトルで、このスキャンダルによって、多くのCEOや経営幹部が責任を取って退職している中、彼だけが特別扱いされることに対して、疑問を投げかけています。同誌に寄れば、彼に供与された2000年の1月の1000万株のオプションは19%も株価が落ち込んだ日にちにバックデイトされており、2001年の750万株は、ボードの認可を得ないで供与されたということです。また、彼はアップル以外に昨年ディズニーに74億ドル(8584億円)で売却したPixarのストックオプション問題も抱えており、このまま彼がすんなりとスキャンダルから逃れられるかは、現時点では何ともいえません。
この稀有な天才的マーケッターを、スタンフォード大学のロースクールの教授Joseph Grudfestは「National Treasure(人間国宝)」のような存在と呼び、Piper JaffraryのアナリストGene Munsterは、彼がアップルを離れた場合、アップルの株価は20%落ちて、その損失は140億ドル(1兆6240億円)になると予測しています。彼の後継者がいない、あるいはありえないアップルにしてみれば、自社の存続、アップルの株主、全世界のジョブスの信者ともういうべきファンのためにも、ジョブスをこのスキャンダルから何とか死守しなければならないという危機的状況でもあるようです。
私は、このスキャンダル以上に、アップルがここまで、このカリスマCEOに依存していることのほうに、危機感を感じます。彼が2004年ガン手術のために6週間不在したことを考えると、彼が健康問題も含めて何らかの理由で、アップルをやめなければならない可能性は十分あり、「アップル=スティーブ・ジョブズ」という公式に依存する現体制には、大きなリスクがあると実感しています。
iPodの爆発的な普及によって、私のようなアップルとは全然関係ないごく普通のPCユーザも、アップル製品(iPod)を購入しています。これは、アップルというかつてのカルト的な会社のDNAを多少薄める要因になってきています。それでも、まだまだカルト的なにおいが色濃く残るアップルは、ファンダメンタルな変革、すなわち「ジョブズの後」という状況になったときに、どうなるのか、非常に気になるところです。
まあ、そんな気苦労はちょっと横に置いて、今はマックワールドのお祭りをエンジョイする、そんな時期なのかもしれません。