しかし、この広告は、事実や論理を無理やり捻じ曲げて、ヘルスケアリフォームを人種差別でくるむという、非常に悪意に満ちたテーマのツイストです。もちろん、常識のある人は「何を馬鹿なことを言っているんだ」と一笑に付すかもしれませんが、問題はこういうプロパガンダをそのまま信じてしまう人たちが、米国に多く存在するというリアリティです。このヴィデオは、Congressional Black Caucusのディナーで、Jesse Jacksonが、黒人下院議員に向かって語ったスピーチの中の発言「You can't vote against health care and call yourself a black man」をモチーフにして制作されていますが、言うまでもなく、この発言に関して、オバマ大統領にできることは何もありません。
アンチオバマの人たちの中には、大統領は出生証明書を提示しているにも限らず、いまだに「大統領は米国市民ではない、あるいは大統領はクリスチャンではなくイスラム教徒だ」と思っている人が多く存在し、Tea Party、Birthersというムーブメント(?)を起しています。彼らは、「オバマ大統領の存在」を受け入れられない人たちで、「厳しい経済環境下で自分の思い通りにならない人生への怒り」を大統領に投げつけています。このヴィデオ制作に代表されるような人たちは、こうした怒りに満ちたアンチオバマの人たちの憎悪をさらにかき立てるために、意図的にヘルスケアリフォームにまで、人種差別というガソリンを注いでいます。
プロパガンダは、往々にして、内容をシンプルにして、扇情的、あるいは感情的な言葉で何度も繰り返すと、その効果が表れてきます。このヴィデオには、そうしたプロパガンダの特徴が活かされています。オバマ大統領は、「米国民を常識のある大人として接する」と宣言して、その通り実行しています。ただし、Tea PartyやBirthersの参加者のように、持って行き場のない理不尽な怒りを持つ人たちには、そうした常識は通用しません。
米国在住も15年とかなり長くなってきましたが、時々こうした米国のリアリティに直面して、「南北戦争はまだ終わっていない」、それを実感します。