*ちなみに、6月以来、オバマとマケインのネットワークTV局のカバレッジは、オバマ114分、マケイン48分と圧倒的にオバマに偏っています。マケインのメディアのカバレッジは、彼がオバマについて発言した時や失言・失敗の際に取り上げられるという始末で、彼が常にオバマについて話さなければならないのは、ある種のメディア対策でもあります。
そんな状況下で今朝のトップニュースは、Nuri al-Malikiイ ラク首相が、ドイツの雑誌のインタビューで、オバマの16ヶ月以内にイラクから米国軍を撤退させるというプランは、「多少の変更はあっても、妥当なタイムラインだ」と支持する初のコメントを出したことです。イラク首相は、「米軍の撤退は可能な限り早く行うのが望ましいし、イラク軍の自立のためにも米軍の増強策は歓迎できない」と答えており、ブッシュ政権、およびマケインにとっては、かなり痛いコメントです。
クリントンを破って民主党の候補者となって以来、オバマは、予備選挙の時に掲げた政策の中で、公的資金の不採用に始まって、銃規制、最高裁の死刑判決、FISA、NAFTA、中絶問題などへの意見を変化させて、「Center(中道)寄りにシフトした」として、リベラル勢力から猛反発を食らっています。また、メディアやブログ圏からも、マケインもそうですが、オバマの中道寄りに見える態度の変化は、「Flip-Flop(突然の政策変換)」として大きく非難されています。リベラルでオバマ支持であった政治ブログ「Huffington Post」は、本選挙向けに、無党派層、民主党寄りの共和党支持者、意思決定をしていない有権者を取り込むために、中道路線に傾くことは、「オバマ・ブランドのAuthenticity(オーセンティシティ:本物であること)」を傷つけることで、今まで彼を支えていた多くの若年層やリベラル勢力の期待を裏切ったとして大きく非難しています。
オバマは、彼の最も強いStrength(強み)である「イラク戦争に最初から反対した」というスタンスに基づいて、「16ヶ月以内に米軍撤退」というプランを、予備選挙中に発言して、有権者から大きな支持を集めました。その後候補者となって、そのプランを非現実的だとして疑問視する意見が出始めると、「実際に米国軍の幹部から話を聴いて、改めてプランを見直す可能性がある」と発言してしまい、それ以来、オバマへの非難は大きく高まっていました。そんな中で、このイラク首相のオバマプランへの支持は、彼にとっては追い風といえます。
6月26日から29日に実施されたCNNの調査によれば、「イラク戦争」に賛成する人は30%、反対する人は68%と、イラク戦争への疑問と不満は増大しています。マケインは、当初、第2次世界大戦後の日本への米軍駐留、朝鮮戦争後の韓国への米軍駐留を例にひいて、イラクへの米軍駐留は100年かかっても、勝利のためならば厭わないと発言して大きな反発を招きました。彼はその後、その発言を無視するかのように、自分の大統領任期終了までには撤退すると大きく方向転換していることを考えると、このイラク首相のオバマプランの支持は、政治的インパクトが大きい発言といえます。
オバマのテロ対策の大きな柱は、予備選挙の時から「アフガニスタンに潜むアルカイダ勢力」へのフォーカスにありました。イラク戦争はブッシュ政権によるミスリード・ミスガイドで、米国は本来アフガニスタンに注力すべき軍事力(人員と費用)を無駄にしたという彼の主張は、今回の最初の海外視察をアフガニスタンに選んだことでも明解です。賛否両論を招き、危険な賭けとも言われている「大統領候補としての初の海外視察」は、意外にもイラクからの風で、まずは順風満帆に滑り出したようです。