東京の自由が丘で生まれた私は、夏になると必ず祖父母の住んでいた伊豆大島に、弟と2人で送られて、子供時代の夏を過ごしました。オムツをしている時から、「海に放られて(島弁です)」、ゴツゴツした溶岩だらけの岩場で泳ぎを覚えた私にとって、伊豆大島は「故郷」とも言うべきところで、この海がなかったら、今の私はない、そう思っています。まだ、サザエやトコブシを許可なく採っても大丈夫な時代で、私は腰に貝を収納するネットをぶら下げて潜り、弟は「突きん棒」と呼んだ小さな子供用のモリを手にして潜って魚やタコを採り、祖母に夕飯のおかずとして毎日持ち帰ったことを思い出します。朝から晩まで泳いでいた私たちは、唇を紫色にしながらも、「寒くない」と言って、帰るのを嫌がったものです。
そんな思い出の大島で、私の最も好きな浜、「王の浜」へ海岸沿いづたいに、夫と行ってきました。夫は、大島は東京湾にあると思い込んでいたので、いきなり太平洋の海が目の前に広がり、まだまだ自然がそのまま残っている大島に大いに感激したようでした。私が「王の浜の」の波が打ち寄せる岩礁に走るように駆け寄って、思わず海水を救い上げて「おいしい、昔と同じ味がする」と叫んだ時、夫は唐突な私の行動にびっくりして、飛び込むのかと思ったそうです。大島の海は、井上陽水の「少年時代」の歌のように、私を一気に「夏の少女時代」に引き戻し、大いに感慨にふけってしまいました。