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サンフランシスコ・シリコンバレー在住マーケターのINSIGHT(洞察)



ひさみの超私小説①:27年前の雨の六本木ラブストーリー

3/23/2021

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1994年3月24日木曜日の夜に起きた、私の超個人的な話。

「日本酒ですか?」

「今日は和食に日本酒のディナーです」とクライアントに言われた。私は「日本酒のみですか、そのお店は?」と聞くと、彼女は「そう」とさらっと会話を終わらせた。

私は内心「いやあ、まいったなあ。日本酒は得意じゃないけど、断るわけにもいかないし。兎に角、お酒は抑えめに行こう」と言い聞かせて、六本木に向かった。彼女は広報担当で、私とはすでに長い付き合いで、NY出張も含めて様々な場所に一緒に出掛けており、個人的にもかなり親しい間柄であった。
​
星条旗通りにぶつかる手前の細い道にあった和食のお店は、料理も美味しく、普段は自分では滅多に飲まない日本酒がその料理とぴったり合って、私は自分への戒めを忘れ、彼女と一緒にどんどん飲んでしまった。詳細は忘れてしまったけど、この和食のお店で食事が終わった頃には、かなり酔っていたことは確か。彼女は〆るために、近くのバーに行こうと言う。「いやあ、もうダメです」という私を引っ張るようにして、元防衛庁の横の小路のソウルバーに向かった。

ソウルバーGeorge's

彼女は英国留学もしており、英語は堪能で、Jazz SingerのCarmen McRae(カーメン・マクレエ)の日本公演では通訳をしたこともあるぐらい。また奇妙なコトに、彼女も私も、個人的には別々に、六本木の夜の〆は、このGeorge'sに来ていた。
​
1964年にまで遡る伝説のソウルバーGeorge's は、幅約2mで奥行き10mほどのうなぎの寝床のようなスペースに、カウンターと丸椅子が15席、そして名物のジュークボックス(EP版80枚でA面B面合わせて160曲)があるだけの狭いバー。 薄暗い店内の壁や天井には今まで訪れた海外の有名ミュージシャンのサインやポスターなどが無数に飾られ、カウンター席は座ると後ろが30センチにも満たない空間で、時間帯にもよるけど、後ろに立ち飲み客が入ることもあった。
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www.georgesbar.co.jp/history.html
オーナーのママさん(岡田信子)は、ガーナ大使館勤務の経験もあり、黒人文化に精通していた関係で、多くのアメリカ兵が出入りしており、当時日本で唯一ソウルミュージックが、ジュークボックスで聞けるソウルバーだった。Wikiでも、以下のように描写されているけど、常連客主体で、ママさんが気にいるかどうかが、肝だったことは、覚えている。

​当時日本ではなかなか聴くことの出来なかった 最新のソウルミュージックを目当てに日本人客がやがてジョージスに出入りするようになる。 その時代のアメリカ兵の溜り場の敷居を日本人がまたぐことは容易ではなかった(岡田信子談)。 当時出入りしていた客によると、出入りする日本人客たちには必然的にアメリカ兵たちと対等に店内空間を共有にする事の出来るつわものが多かったため、客同士の喧嘩やトラブルも絶えなかったという。 その上、常連となった客の仲間意識が非常に強かったため、その後のジョージスには客を選ぶ店としての印象が付きまとった。 次第に時代が進むにつれて日本人客の割合が多くなったものの客を選ぶ店という評判のもと、人づてで多くの芸能人や著名人で常連となる者も増え(海外のミュージシャンが特に多かった。ダリル・ホール&ジョン・オーツはその中でも特に親交が深かった)、さらに客を選ぶ店というイメージが高まり一見客はとても入れる雰囲気ではなかったという。 実際に後のジョージスは次第に常連色の強い店と形成されていき、一見客がほとんど寄り付かない異色な店と変化していった。 現在営業する老舗のソウルバーのオーナーの中にはこの頃の常連だった人々も多く、他にもジョージスから影響を受けた著名人は少なくない。 鈴木聖美 with Rats&Starが歌った「TAXI(作詞 岡田ふみ子、作曲 井上大輔)」の歌詞にも「Georgeの店」として登場する。2001年にオーナーの岡田信子が他界。2005年8月24日、東京の西麻布にて営業再開。

​1994年3月24日木曜日の夜、George's は、何故かたった2人の外国人のお客のみで、ガランとしていた。ジュークボックスのそばのカウンターの2席が空いており、男性客はその3番目と4番目の席に座っていた。

​私たちはためらいもなく、ジュークボックスのそばの席に座った。ご機嫌な彼女は、隣の男性に自己紹介をし始めて、私の方を振り返りながら「この子は沖縄から来たばかり、英語はあまり出来ないし、すでに酔っているから、気にしないでいいわ」と告げた。

​ジュークボックスと傘

George's のカウンター席は、幅2mしかないので、トイレに向かうたびに、座っている外国人男性に声を掛けねばならなかった。酔ってはいたものの、George'sではジュークボックスの曲で踊ることが好きだった私は、ジュークボックスの前に立っていると、突然クライアントと話していなかった、もう1人の男性が私に近づき、Do you wanna dance?と聞いてきた。私はためらないもなく、Sureと、答えてしまった。残念ながら、どの曲で踊ったかは、今は全然思い出せない。
​
その後、暫くして、終電間際であることに気が付いたクライアントは、シンデレラの如く「電車がなくなる、帰らなきゃ!」と叫んで、飛び出した。何故か、私は彼女の後を追うコトもせずで、そのまま、ソルティドッグを飲みながら、その男性と話し続けた。小1時間も経った頃、外では雨が降り始め、私は「帰らなきゃ」と言って、店を出ようとしたら、その男性は折り畳み傘を差し出した。私はその傘を差しながら、タクシーを掴まえて、家まで帰った。

​「大変です、外国人が3回も電話してきました」

日本酒とソルティドッグのブレンドが効いた、翌朝の私のアタマの中は、小人が小槌でガンガン叩いているような状態。電話で私は「今日は午後出社します」と言うしかなかった。電話口の部下は「大変です、外国人がすでに3回も電話をかけてきています。必ず電話してください」と言われた(当時私は英語が出来ないというラベルを貼られており、部下はそんな私がなぜ外国人とコミュニケーションをしたのかが、不思議だったんだと思う)。

思わず「はあ?」と考えたが、「あっ、そうか」、名刺交換したし、傘も借りていたんだと納得した。

傘を返すにしても、ちょっと面倒くさいと思いながら、男性に電話すると「昨晩、君は酔っていたみたいので、今晩改めてディナーはどうですか?」と聞かれた。

私はアタマの上までアルコールが入った状態で、今晩ディナーなんか、とんでもないと断ると、彼は「今晩東京を離れるけれど、週末に東京にまた戻ってくることは可能なので、土曜日か日曜日、ディナーはどうか?」と言われた。
​
傘を借りている手前もあるし、氏素性もしっかりした男性だったので、私は土曜日に傘を持って、全日空ホテルのロビーに向かった。

​きちんとタイを締めてスーツを着て待っていた男性

George'sでは、カーキのパンツにレザージャケットという軽装だったその人は、全日空ホテルのロビーで、ロングコートにタイとスーツという、フォーマルな姿で私を迎えた。私は逆に週末なので非常にカジュアルな格好で、ちょっと戸惑ったが、彼は礼儀正しい態度で、私をイタリアンレストランに連れて行った。

そこで何を話したかは、今イチ思い出せないが、英語が出来ないと思い込んでいた私が、何故か、彼とは自然に英語で会話が出来て、無理なく話せたことだけは、記憶にこびりついている。
​
1994年3月24日の夜から、1年と15日後、その男性と私は、満開の桜の樹のもとで結婚式を挙げた。
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六本木のGeorge's からSaint Georgeへの旅

あの夜、George's のジュークボックスと、折り畳み傘がなければ、2021年3月24日の今、このSaint Georgeの自宅に、夫と2人でいるというコトはなかったと思う。
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六本木のGeorge'sからSt Georgeへと、27年間、夫と2人で人生の旅を共にしてきたけど、私は最近ますます自分は幸せ者だと思う。そして、この後も、この人と長い旅を続けていきたいと、思っている。
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PS:あのクライアントとは、今でも仲が良く、彼女は今でも冗談で「なぜ、彼はあなたを選んだのかしら、不思議。本当は私だったはず…」と笑いながら話す。
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    大柴ひさみ

    日米両国でビジネス・マーケティング活動を、マーケターとして、消費­者として実践してきた大柴ひさみが語る「リアルな米国ビジネス&マーケティングのInsight」

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