その一つは、ミネアポリスの郊外のBurnsvilleでクリスマスの2日前に起きた火災に関するストーリーです。火災で着の身着のまま逃げだした64世帯の家族は、ほとんどが低所得者世帯で、その被災者のために、匿名で100万ドル(1億円)が寄付されたという話です。火曜日に起きたアパート火災では、誰もが家財道具や衣類も持ち出せずに、近くの高校のシェルターに避難しました。赤十字や地元のボランティアによる食料や衣類の支給の支援もさることながら、高校生たちのサポートが大いに被災者を勇気付けました。高校生は自からのお金も含めて、地元のコミュニティであっという間に5000ドル(50万円)の寄付を集め、さらにブラスバンドでクリスマスの曲を演奏し、自分のクリスマスギフトを被災者にプレゼントするなど、大いにクリスマスらしい行動でコミュニティに貢献しました。匿名の100万ドル(1億円)の寄付は、そうした中で発表されたもので、被災者世帯につき1万7543ドル(175万4300円)が支給されます。この匿名の寄付以外にも合計10万ドル(1000万円)以上の寄付が集まり、さらに新しいアパートを被災者に安い家賃で提供するというアパートオーナーのオファーもでてきて、クリスマスムードは大いに高まりました。
よく日本の人に、「アメリカでは、寄付は税金控除になるので、盛んなんですよね」と言われます。確かに企業や個人も含めて正当なチャリティ行為のための寄付は、税金控除の対象となりますが、金額の限度もあり、額面どおりにすべてが控除対称になるから、みんながチャリティ行為をするというわけではありません。「コミュニティは自ら参加・貢献して構築していくもの」という考え方や、キリスト教の「富める者が貧しい者へ富を分け与える」という価値観、こうしたものが文化を形作っているので、クリスマスの時期に「匿名のサンタ」ともいうべき人たちが現れます。
今回のこのミネソタの100万ドル(1億円)の匿名寄付者もしかりですが、匿名のサンタは、多くの人員解雇の行われた自動車産業のメッカ、デトロイトにも現れました。2人の匿名の夫婦のサンタは、クリスマスの直前のデトロイトで、合計1万1000ドル(110万円)を、バスの停留所、コインランドリー、中古品ショップなどで、生活に苦しむブルーカラーの人たちに、クリスマスギフトとして、裏側に「Secret Santa(シークレット・サンタ)」と書かれた100ドル札を、配って歩いたようです。思いもよらないクリスマスプレゼントをもらって、匿名サンタの優しさに涙ぐむ、といった人たちの写真も、新聞に出ていました。深刻な経済問題で、先行きがまったく見えないデトロイトの人たちにとって、クリスマスを感じる、ちょっと良い話です。
我が家にも、実はサンタが来ていました。クリスマスの朝、いつもよりちょっと遅めに起きた私は、暖炉があるリビングルームに下りていきました。夫はいつものようにコーヒーを飲みながら新聞を読んでいましたが、私がカウチに座って、クリスマスカードやツリーでデコレーションされている暖炉を見ると、なんと2つのプレゼントがおいてありました。私は思わず、「これは何だ?」と叫ぶと、夫は笑いながら「サンタが来たんだよ」と言って、プレゼントを手渡してくれました。手に取ると、小さなカードに、「To Hisami, from Santa」と書かれており、中身は、私が前から欲しかったREIの水色のマイクロフリースのキャップとスカーフ(日本風に言うとマフラー)でした。私は夫に「なぜこれが欲しいとわかったの?」と問い詰めると、夫は「サンタは、何でも知っている。多分、彼は君のMiataの色にピッタリのドライビング用のスカーフとキャップだ、と思ったから選んだだよ」といって喜んでいました。もちろん、このプレゼントを見て、私は夫の作戦がすぐにピンと来ました。夫は以前からREIの自転車用のコンピュータを欲しがっており、先週盛んにオンラインで商品をチェックしていました。その際に、私にクリスマスプレゼントは何がいい?と聞きましたが、私は車を買ったから無駄なものは一切いりませんと答えています。そうです、彼は自分1人でクリスマスギフトを買うわけにいかず、私へのプレゼントを含めて、サンタからの2人へのプレゼントとしたようです。夫は「さてさて、僕のプレゼントは何だろう?」と言いながら、自分できれいにラップして、サンタからと書かれたカードを、私に見せながら、自転車用のコンピュータを嬉しそうに取り出しました。我が家の場合は「匿名のサンタ」の話とは大違いですが、生まれて初めて、「サンタ」と英語で書かれたクリスマスギフトをもらった私は、子供に戻ったような気分で、とても楽しくウキウキしたクリスマスを過ごしました。