- Change vs. Experience(経験を盾にして、変革を求める米国民の声を読み間違えた)
- War Vote(イラク戦争開始への賛成投票。さらにそれが間違いであると認めなかったこと)
- Dysfunctional Campaign(戦略ミスと内部分裂で機能しなかったキャンペーン)
- Overconfidence(クリントンブランドへの過信)
- Bill Clinton(元大統領ビル・クリントンが巻き起こした舌禍)
- Sexism(女性差別のカードを引いた)
米国における「クリントンブランド」は、良くも悪く絶大な知名度があります。民主党大統領では、フランクリン・D・ルーズベルト以来の初の2期当選(8年間)を果たしたBill Clinton(ビル・クリントン)は、ITと金融に重きをおいた政策で、米国の経済・社会構造を大きく変革して、長期にわたる好景気をもたらしました。ただし、常に女性スキャンダル(Paula Jonesを含めた女性たち)がまとわりつくクリントンは、ホワイトハウスのインターンであったMonica Lewinsky(モニカ・ルインスキー)とのスキャンダルで、民主党大統領としては2人目の「弾劾裁判(Impeachment)」を受けることになりました(ビル・クリントンが国民に向かって、TV番組でルインスキーとの関係を説明するシーンは、今でも強烈な印象があります。顔を真っ赤にしながらな苦しげに女性関係を答弁する大統領は、とても正視に堪えられるものではなく、こういうシーンは二度と見たくないと誰もが思った瞬間です)。
女性問題を起こすビル・クリントンを、パートナーとして(2人の関係は愛情を基にした夫婦というよりは、同士といった風に見えます)、常に擁護してきたヒラリー・クリントンは、ビル・クリントンの大統領任期終了後は、その影を払拭するかのように、上院議員として民主党の政界に躍り出ました。ファーストレディ時代に、すでにヘルスケア問題に着手して失敗したヒラリーですが、弁護士時代に鍛えた弁舌は鋭く、そのインテリジェンスと強力なプレゼンスは、彼女自身が主役となったクリントンブランドを構築し始めました。
「クリントンブランド」は、単なるシングルブランドではなく、この2人の「ダブル・クリントン」として位置づけられるもので、通常のブランドではとても太刀打ちできない、民主党最強ブランドでした。そこに、「A skinny kid with the funny name(変な名前を持つ痩せた子供)」と自称する、イリノイ上院議員のBarack Hussein Obama(バラク・フセイン・オバマ)が、登場しました。2004年の民主党大会までは誰も知らなかったオバマは、変な名前と自称せざるを得ないのは、ミドルネームのHussein(フセイン)も含めて、モスリム名(ケニア人の父親の名前を受け継いでいる)を持つ政治家としての辛さを現しています。また、黒人(彼は黒人を自称していますが、基本的には白人と黒人の間のBi-racial=複数人種です)であること、経験の少ないジュニアの上院議員であることなど、どう考えても大統領への道は非常に困難としか思えない候補者でした。
「クリントンブランドの圧倒的優位」は、クリントン陣営に限らず、共和党・民主党を問わず、メディアも含めて、ほとんどの人たちが信じていたことです。これが、クリントンマシーンと呼ばれるサポーターたちに過信をもたらし、従来の支持基盤に頼って、新たな支持者開発に出遅れた一因となっています。また、それ以上に、誰もがこの「オバマ現象(Obama Phenomenon)」と呼ばれるほどの熱狂を、予備選開始前に予想できず、オバマへの過小評価は、大きなツケとなって、クリントン陣営を蝕みました。
すでに、クリントンは、キャンペーンを中止して、オバマを民主党の大統領候補として認めていますが、この敗戦は、キャンペーン資金にも大きなツケをもたらしています。オバマ陣営は2000万ドル以上あるというクリントンの負債を返済すべく、サポーターたちに彼女へのドネーションを強く呼びかけています。昨日、ニューハンプシャーでヒラリー・クリントンは、オバマとともにステージに上がり、彼をホワイトハウスに送り込むために全力を尽くすと発言しています。彼女はブルーのパンツ・スーツ、オバマはブルーのタイとカラーコーディネートしており、さらに場所も2人が引き分けたニューハンプシャーの「Unity(一体化するという意味)」という小さな街を選んでいます。
ただし、2人の予備選での熾烈な争いは、クリントンの女性支持者に深い傷跡を残しており、両陣営のサポーターが、本当に一緒に協力できる体制が整うには、まだまだ時間がかかりそうです。