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サンフランシスコ・シリコンバレー在住マーケターのINSIGHT(洞察)



クリントンが負けた理由⑥「女性差別のカードを引いた」

7/19/2008

 
シリーズエントリです。6/11のエントリ「Clinton(クリントン)が負けた6つの理由」のうちの6番目、最後の項目です。

  1. Change vs. Experience(経験を盾にして、変革を求める米国民の声を読み間違えた)
  2. War Vote(イラク戦争開始への賛成投票。さらにそれが間違いであると認めなかったこと)
  3. Dysfunctional Campaign(戦略ミスと内部分裂で機能しなかったキャンペーン)
  4. Overconfidence(クリントンブランドへの過信)
  5. Bill Clinton(元大統領ビル・クリントンが巻き起こした舌禍)
  6. Sexism(女性差別のカードを引いた)

キャンペーンを開始した2007年当時のHillary Clinton(ヒラリー・クリントン)は、クリントンブランドへの自信から、あえて「初の女性大統領候補」としてのポジショニングを強調せずに、むしろそれを避けるかのように、彼女自身のキャリア、経験、資質などが、いかに大統領として適切であるかという点にフォーカスしたキャンペーンを展開していました。当時の一般のクリントンへの見方は、以下の有名なオバマサポーターの政治ヴィデオ「Vote Different」に代表されるように、むしろ性差を超えて、その「強さと冷たさ(=冷静さ)」が、彼女のイメージとして定着していました。
ヴィデオは、アップルの歴史的なマッキントッシュのCM「1984」のリミックスです。当時アップルはIBMを、この2007年の政治ヴィデオはクリントンを、Big Brother(独裁者)としてシンボライズして、アップルとオバマは、独裁者に立ち向かう挑戦者として描写されています。7月18日現在で530万3258のビューがあるほど、バイラル化して広まっていったヴィデオは、当時のクリントンとオバマの位置関係を如実に現しています。

この当時を振り返ると、多くのメディアも一般の有権者も彼女の絶対的な優位を確信していたので、クリントンが女性であることはもちろん認識していましたが、それが「男性社会で差別されている女性」という図式にはつながっていませんでした。また、彼女もことさら「女性としての性差」を持ち出して、男性中心社会で差別されているという被害者意識で、女性の有権者の共感を得る必要性は感じていない、そんなムードでした。

そんな彼女の自信は、1月の最初のアイオワの予備選挙における、オバマの劇的な勝利、自身はエドワーズに続いて3位となったことから、大きく崩れていきます。先頭を走る予定の走者がいきなり3位になり、さらにメディアの「オバマへの熱狂」は、彼女をドンドン追い込んでいきます。そうした彼女に追い討ちをかけるように、夫のビル・クリントン元大統領の「All-boys club(男性社会での女性の差別)」発言、さらに女性初の副大統領候補のGeraldine Ferarroの「オバマは黒人であるから大統領候補となれた。オバマやメディアはクリントンを女性差別している」という発言は、被害者意識の発露として見られていきます。特にFerarroの発言は、人種差別および女性差別を非常に感情的に表明した発言で、彼女がクリントンのサポーターとしての地位を離れても、彼女自身何度もメディアに登場して、クリントンの足を引っ張るがごとく、繰り返し「人種と性差の差別カード」を振り回しています。

クリントン自身は、アイオワ敗退の後に、支持者に囲まれた中で、選挙戦がいかに厳しいものであるかを語りながら、涙を流して、初めて「人間的な(=女性的)」な部分が見せたとして、女性有権者やメディアの大きな共感を得て、ニューハンプシャーで勝利しています。ただし、その後の候補者たちとのディベートで、彼女は「なぜいつも自分が最初にモデレイターから質問を受けるのか?オバマには誰も最初に尋ねない」という発言をし始めて、徐々に女性差別のニュアンスを、キャンペーンに持ち込んでいきます。

クリントンの熱狂的な女性支持者は、60歳以上で、多くの女性たちは、彼女たちの若い時代には、法的にも社会的にも男女同等の扱いを受けられなかった経験を持つ人たちです。彼女たちは、自分のたちが生きている間に「女性大統領」の出現があるとは思いもよらず、そうしたフェミニストたちはクリントンにその夢を託すという流れを生み出していきました。それに異を唱えたのが、若い世代の女性たちで、性差を持ち出すこと自体が逆にアンフェアだとしています。また、クリントン支持の男性有権者も「女性差別カード」を持ち出したことによって、従来のフェミニズム的なものへの反発となって、クリントン自身の個人の資質を疑うという結果をもたらしました。

政治でも、ビジネスでも、そうですが、本当に実力のある人たちは、当然のことながら、自分個人の資質で勝負します。そこに、人種、性差、年齢、家系など、自分では変えられない要素を持ち込んで、それを梃子にして他を説得しようとした場合、必ず反発が生まれます。クリントンへの批判の一つには、ビル・クリントン元大統領の妻として、ファーストレディの地位があったからこそ、大統領候補になれたという、自身の資質を越えた部分が大きな要素を占めるというものもあるくらいです。クリントンも、それは十分理解していたはずですが、思い通りに展開できなかったキャンペーンによって、追いかける立場になった途端に、意識化に潜んでいた「被害者意識」が持ち上がってしまったようです。

クリントン支持者に「なぜクリントンをサポートするのか?」と尋ねて、サポーターが「クリントンは女性だから」と答えたら、私がクリントンでしたら、大いに失望してしまいます。私は日頃から「男性中心社会だからこそ、女性がその中で一緒に働く場合は、大きなアドバンテージがある」と、答えています。「性差」を被害者意識ととるか、アドバンテージととるかは、その人次第です。


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    大柴ひさみ

    日米両国でビジネス・マーケティング活動を、マーケターとして、消費­者として実践してきた大柴ひさみが語る「リアルな米国ビジネス&マーケティングのInsight」

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