今朝の新聞をみて、本当にびっくりしました。ワシントンDCでドライクリーニング店を営んでいる韓国人Chung一家に対して、自分が預けた一着のパンツがなくなったとして、判事が6,500万ドル(78億円)の訴訟を起こしたという記事です。
こんな訴訟が起こりえること自体が、この国の訴訟天国のアホらしさを如実に現しています。2003年にコラムでも書きましたが、日本の弁護士は2万人弱、米国はその45倍以上にあたる90万人以上の弁護士が存在します。弁護士の国民1人当たりの割合は、日本では約6,300人に1人、米国では約290人に1人の割合となり、石を投げれば弁護士に当たるのが米国社会です。
この韓国人のドライクリーニング一家の悲劇は、この原告がたまたま判事であったために、始まったような気がします。2年前に、この判事Roy Pearsonは、数着のスーツのリフォームを、このCustom Cleanersに頼み、一着のパンツが仕上がり予定日の2日後になっても出てこなくて、彼はその弁償として1000ドル(12万円)をChung に要求します。Chungは、一週間後にパンツが見つかったとして、彼の弁償金の支払いを拒否しますが、それが気に入らないPearsonは、訴訟を決意します。Chungは、訴訟を避けるために、和解金として、最初に3,000ドル(36万円)、その後4600ドル(55万2000円)、さらに1万2,000ドル(144万円)を提示しましたが、Pearsonはそれに満足せず、彼の独自の計算(彼は、他のクリーニング店に行くためにクルマをレンタルして10年間通った場合のコストと、ワシントンDCの消費者保護法による一回の違反1,500ドル(18万円)受け取れるなど、さまざまな罰金まで計算にいれている)で、累積金額が6,500万ドル(78億円)という馬鹿げた金額をはじき出して、訴訟を起こしています。
Chung一家は、もうこれ以上の法的な争いおよびその出費のために、米国にいることも出来ず、さらに精神的にひどく傷つけられたとして、韓国に戻るという話です。これは、本当にひどい話ですし、もちろんPearsonに対して、非難が上がっており、彼を判事から罷免しろという話も出ています。ただそれ以上に、「何でもかんでも訴訟して、金をふんだっくってやる」という社会全体の意識やモラルの低さに、憤りを覚えます。
1994年に起きた有名な訴訟では、79歳の女性がファストフード店のドライブスルーで買ったコーヒーを、運転中に太ももに挟んで、蓋を開けようとして火傷して、その訴訟で64万ドル(7,680万円)を獲得した有名なケースもあります。被害者の非常識な行為が原因であっても、腕のいい弁護士がつけば、勝訴するケースが多々ある米国社会では、訴訟した方が勝ちという悲しい現実が、人々を弁護士事務所に駆け込ませます。
今回は、Pearson自身が弁護士役もやっており、通常の訴訟だと弁護士に支払う金額が莫大になりますが、それも彼には負担となりません。
私がいつも行くクリーニング店も韓国人の経営ですが、いつもかなりしつこくシミの原因を聞かれるので、私は結構おどおどしながら、彼女と応対しています。夫曰く「やっぱり、あれだけしつこく原因を聞いても、必ず最後には落ちるかどうかの保証はできないと、つっぱねる理由がよくわかった。」と納得しています。このChungのクリーニング店は「Satisfaction Guaranteed (満足の保証)」をうたっており、Pearsonは、この自分の満足の保証の分も、訴訟金額に計算しているということです。
アメリカンドリームや機会の平等を求めてやってくる移民に対して、時には情けないほど、非情で不公平なことが起こる、これもアメリカの現実です。
1ドル=120円の計算