ここでのポイントは、こうした政府のプランを見て、米国一般消費者は、漠然と「政府にはお金があると思い込んでいる」ことです。実際は「米国政府にはお金はない」、さらにお金がないどころか、借金だらけで、Government Accountability Officeによれば、53兆ドル(5565兆円)という、私にとっては天文学的で長期的な負債を抱えているという事実です。これは年間の国家予算の収支とは異なり、返済目途などを示す必要のない借金で、国民が見えにくく実感しにくい負債です。ただし、これは言い換えると、米国では一世帯につき、45万5000ドル(4777万5000円)の負債を抱えていることを意味します。またもっと怖いのは、この負債はどんどん雪達磨式に増えており、これを中国や中近東の産油国の投資に依存しているという状態です。
こうした巨額な負債を抱えて生き抜くためには、米国のドルの信用を確保して、強化するしかなく、それによって米国市場は融資先を常にひきつける魅力を保持して、走りぬいていくしかないようです。私は、経済学者ではありませんが、この「強いドルの確保」という考えは、1996年、2000年の2回共和党の大統領候補者となり、経済雑誌の「Forbes」の会長兼CEOのSteve Forbesが、昨日MSNBCのインタビューで答えていたことです。彼には日本の出版者のパーティで一度会った事がありますが、気さくな人柄で、好感の持てる面白い人でした。確かに彼のこの意見は、当然といえば当然で、「強いドル」すなわち、「競争力の強い米国」になるためには、対処療法や短期的な戦術ではなく、将来のヴィジョンに基づく、長期的な戦略が必要です。「付け焼刃」では、ここまで悪化した患者の病巣を手術することは不可能で、大きな痛みを伴う「大手術」が必要になってきています。
この痛みを伴う大手術の一環として、「輸入エネルギー依存からの脱出」があります。
アメリカ人の原子力発電に関する意識は、1979年の「Three Mile Island accident(スリーマイル島事件)」がトラウマとなって、原子力発電への危険性のみがクローズアップされて、30年間発電所の新設されないほど、フリーズ状態となっています。地球温暖化を考えるとクリーンでなおかつ大量の電力を安定供給できる原子力発電は、フランスが電力供給の80%を原子力発電でまかなうという例をひくまでもなく、米国が乗り越えなければならない巨大な課題です。そんな中で、今日発表されたField Pollによれば、環境問題に敏感なカリフォルニアでさえ、50%がもっと原子力発電所を州内に開設すべきだと解答しています。この数字は、米国のエネルギー政策への米国民の心理と態度の変化を示唆しており、30年に渡ったトラウマが消し飛ぶぐらい、「ガソリン=物価の上昇」は大きなトリガーとなって、米国民のアタマに銃口を突きつけているようです。
ブッシュ政権はこうした風向きを素早く察知して、7月14日に18年間モラトリアムとされていた米国の海岸線の油田採掘禁止を解除しました。もちろん、議会の採決を待たないとこの解除は実行されませんが、ブッシュ政権は、エネルギー問題解決のために、新しい油田採掘を必要とするという意見が、最近35%から47%に急増した国民のムードを反映して、強気のアクションを起しています。民主党は、すでに石油会社に提供されている6800万エーカー(27万5200平方キロメートル)の油田採掘可能なエリアの採掘が先で、海岸線の新たな油田採掘は現在の石油価格高騰の解決にはつながらない、場当たり的な施策だと非難しています。
「石油価格高騰」という、米国のライフスタイルの急所ともいうべき「人質」を取って、大統領と議会はお互いを非難しあっていますが、前述の原子力発電所への取り組みも含めて、抜本的なエネルギー対策を講じない限り、この米国の「Weakness(弱み)」は、今後も頻発して、米国民の首を絞めます。フランスが原子力発電を選んだ理由は、石油、天然ガス、石炭というエネルギー資源が自国になく、他に道がなかったと語っています。1976年の石油危機以来、年間2つの原子力発電所を新設して、すでに58の原子力発電所を持つフランスは、電力を英国、ドイツ、イタリアに輸出するほどです。米国は、自国内にまだまだ手をつけていない、石油、天然ガス、石炭が取れる場所を有し、それ以外にも代替燃料など、選択肢はたくさんあります。ポイントは、どのようなエネルギー戦略のもとに戦術を展開していくかで、「持てる国」の悩みともいうべき、選択肢の多さが逆に米国の足かせにもなっています。
NY Times/CBSの調査では、「80%の人は経済が悪い状態、19%は良い状態」と答えています。崖っぷちに追い詰められた時に、人は本能的に何をすべきかが見えてくると思います。今がその時期です。