民主党内には、「コーヒー」を例にとって、以下のような2つのタイプの支持者がいると言われています。
- Dunkin' Donuts Democrats(ダンキンドーナッツ型民主党支持者):ステレオタイプに表現すると、高卒のブルーカラーワーカー。一生懸命働いているが、「給料日から給料日の生活」といわれるように、生活費の支払いに追われるタイプ。この層が、不動産バブルの崩壊で打撃を受けたり、海外へのアウトソーシングのために工場を解雇されたり、健康保険が払えなかったりと、厳しい生活を強いられている。時間に追われているので、ドライブスルーでダンキンドーナッツとコーヒーを買って、そのままクルマで、カントリーサイドの雪道に戻るようなタイプ。
- Starbucks Democrats(スターバックス型民主党支持者):ステレオタイプに表現すると、大卒のホワイトカラーでプロフェッショナル(専門職)な職業を持っている層。都会に住んでいる場合が多く、スターバックスにラップトップを持ち込んで、「ノンファットのヘイゼルナッツのラテ」を注文するようなタイプ。「6フィギュア」と呼ばれる10万ドル以上の高収入を得ている人たち。
こうした表現は、2000年の大統領選挙の民主党大統領候補として立候補したBill Bradleyの支持者を、「Sushi and Starbucks Democrats」と描写したくらいで、決して新しい区分ではありません。ただし、今回のクリントンとオバマの選挙戦では、その支持基盤の違いがかなり明解となり、オバマとスターバックス、クリントンとダンキンドーナッツというイメージが固定しました。また、クリントンキャンペーンが実際にダンキンドーナッツにかなりの金額を使っていることが、NY Timesのレポート*によってわかり、クリントンとダンキンドーナッツの関係は強くイメージされるようになっています。
*クリントン陣営のドーナッツ支出額:1月のニューハンプシャー、フロリダ、ヴァージニアの3州のキャンペーンで、ダンキンドーナッツに1884.83ドル使い、サウスカロライナでは、Krispy Kremeに、504.02ドル使っています。1月末の時点で、ダンキンドーナッツに使った金額は、5950.53ドルにのぼっています。
もちろん、こうしたステレオタイプな分け方は、マスメディアが「したり顔で行う差別化」で、実際の支持者たちをこうした単純な分け方で区分けすることは出来ません。ただ、この2つのブランドがシンボライズするものは、良くも悪くも両候補者のブランドイメージを現しています。
- 「ダンキンドーナッツ」:「庶民性=近づきやすい、気軽な食べ物、肥満につながり健康的ではない、親の世代の古臭いイメージ、グルメの食べ物ではない」
- 「スターバックス」:「Wi-Fiアクセスがもたらすテクノロジーに強いイメージ、先進性、グルメ、都会的、スノッブ=お高くとまっている」
両候補者は、おのおのこうしたブランドイメージを引きずりながらも、ホワイトカラー、ブルーカラーの両方の支持者にリーチアウトするために、様々なパフォーマンスを繰り広げました。特に、クリントンはアイオワ敗退後は、女性支持者とのミーティングで涙を見せて、「冷たい」といわれていたイメージを払拭し、パブでビールやウィスキーのショットを、男性のブルーカラーの支持者と飲んで庶民性を強調し、オバマがアピールしにくいブルーカラー層に深く食い込んで行きました。オバマも、パフォーマンスでは、ブルーカラー層へのアピールのために、ボーリング(ひどいスコアで評判が悪かった)やプール(ビリヤード:これはかなり上手でした)を行ないましたが、ブルーカラー層にはなかなかリーチアウトできませんでした。ただし、バスケットボールにおいて、高校時代プレイヤーであった実績をシュートで見事に表現して、若い世代の支持をより多く勝ち得ています(ホワイトハウスにバスケットボールのコートが欲しいと発言しています)。
オバマが、最終的に予備選を勝ち抜けた大きな理由は、ブランドとしての「新しさ」にあります。クリントンブランドが、すでにエスタブリッシュされた既成のメガブランドだとすると、オバマブランドは、「従来の政治シーンにみられなかった、ユニークで革新的なブランド」として登場しています。オバマブランドを最初に発見したのは、大学生を中心とするGeneration Y(ジェネレーションY、あるいはミレニアルズ=世紀末世代と呼ばれ、区分は諸説ありますが一般に1977年から1999年までに生まれた8~30歳まで)です。2004年のオバマの有名な民主党のスピーチに感銘を受けた大学生は、米国第2位のソーシャルネットワーク(SNS)Facebookで、彼を大統領にするために署名ページを立ち上げ、オンラインを駆使して、グラスルーツのネットワークを全米に広げていきました。Evangelist(伝道者)化した若い世代は、両親や祖父母という上の世代を説得しながら、オバマブランド普及の大きな原動力となり、莫大な数の「CGM (Consumer Generated Media:消費者創出メディア・コンテンツ)」や「UGC (User Generated Content:ユーザ創出コンテンツ)」を生み出していきました。
オバマブランドは、8年間続いたブッシュ政権のアンチテーゼの役割を担い、「Agent of Change (変革の代行者)」としてデビューしています。「Youの時代(YouTube=ヴィデオは大きな影響力を持っています)」と呼ばれて、「消費者がお互いにマーケティングし合う」現代において、オバマは、最初に出現した「CGB (Consumer Generated Brand:消費者創出ブランド)」、あるいは「UGB (User Generated Brand:ユーザ創出ブランド)」と呼べるかもしれません**。
注)**「CGB (Consumer Generated Brand:消費者創出ブランド)」および「UGB (User Generated Brand:ユーザ創出ブランド)」は、私がここで仮に使用している言葉で、米国で一般に使用されているわけではありません。