自宅に戻って、家が綺麗になっており、思わず、夫に「今朝はがんばって朝からお掃除してくれたんだ!ありがとう」と叫んだら、夫はちょっと照れたような表情で「ハウスクリーニングしたのがわかる?」と聞き返してきました。日本に行く前、私は猛烈に仕事をしており、ご飯を食べたり作ったりする時間もなく、当然家の掃除や整理整頓はできず、かなり見苦しい状態でした。通常は、夫は私が帰る直前に、自分で掃除をするのが常ですが、今回はとうとうハウスを掃除する「メイドサービス」を雇って、やってもらったということです。彼も忙しいのでこれは理解できますが、もっと驚いたのは、その掃除をしたメイドさんが、なんと彼の同僚であったということです。夫は同僚が以前こうしたメイドを派遣する会社にいたので、メイドの推薦をしてもらおうと思って聞いたら、彼女は自分がノウハウがあるので、1時間15ドルのアルバイトで掃除すると言って、うちに訪ねて来たということです。
アメリカでは、夫婦共働きが普通で、忙しい人たちは、メイドサービスを雇うのは一般的ですが、まさか夫の会社の同僚がそれをやるとは、思いもよらない経験です。夫は同僚に「君が掃除のために来るなら、来る前に僕が家の掃除をしないと、逆に恥かしい」といったらしいですが、彼女はそんな言葉を一蹴して、気にしなくていいと言って、ガーガー掃除を始めたようです。アメリカ人の合理性には、こんなところにも現れています。
日本で、WOM (Word of Mouth:クチコミ)の講演をしてきたばかりですが、こうした人的サービスに関して「WOM」が大きな力を発揮します。ヘアースタイリスト、メイドサービス、ガーデニングなどのサービス業では、まず友人知人に、誰か知らないかと聞くのが常で、さらにYelpのようなローカルのレビューサイトを見ます。夫の場合は、推奨を求めた知人が、サービスを提供するという妙な展開になりましたが、90%以上の人たちが製品・サービス購入の際に、友人の推奨を求める、あるいは推奨を提供すると答える現代では、「友人の推奨」がビジネス成功の大きな要素となっています。
米国のビジネスでは、顧客とのエンゲージメント測定のために、「あなたはこの製品・サービスを、家族友人に薦めるか?」という質問をあらゆるコンタクトポイントで行います。家族友人という最も重要な人たちへ推奨出来るかどうかを判断基準にして、「嘘やごまかしがきかない人たち」という高いハードルでエンゲージメントを測ります。これは非常にシンプルですが、適切な指標のひとつといえます。
我が家の場合、夫の同僚のマーサのサービスは、まあまあそこそこで、私がこのエンゲージメントの指標で質問されたら、コストパーフォーマンスを考えて、「イエス」と答える可能性は大といえます(時給15ドルは安いし、彼女は非常に信頼がおけます。通常のメイドサービスは見えないところは手を抜くので、結果自分でまた掃除しなければならないといわれています)。しかし、これから毎週土曜日に、マーサが朝早く我が家に来て掃除をするとなると、私はその前にやはり家を綺麗にしないと恥かしい、と思うので、今後継続するかどうか、思案中です。