彼は、また多くの優秀なクリエイターを育てています。彼のもとで学んだJeff GoodbyとRich Silversteinは、1983年サンフランシスコに自分たちのクリエイティブハウス「Goodby, Silverstein & Partners 」を立ち上げるために、Rineyに別れを告げました。彼は、若い2人のクリエイターに、こんなはなむけの言葉を贈ったそうです。
「If you fellas get tired of making your own coffee over there, you should call me up.」
この言葉を目にして、私も思わずジーンと来てしまいました。
20世紀にマジソンアベニューで確立された「広告」の世界は、21世紀に入って大きく変わりつつあります。CGM (Consumer Generated Media:消費者創出メディアやコンテンツ) 、UGC(User Generated Content:ユーザ創出コンテンツ)といった言葉が、普通に語られ、ブログやソーシャルネットワークで、人々は、ブランドや製品についての「WOM (Word of Mouth:クチコミ)」をして、マーケティングのドライバーズシートには消費者が座っています。アマチュアCMコンテストでトップに選ばれたCMは、スーパーボウルでそれがオンエアされて、「誰でも一生のうち15分間だけは名声が得られる(アンディ・ウォーホールの言葉)」時代でもあります。
そんなアマチュア全盛時代だからこそ、逆に本当のプロが作り上げるクオリティの高い広告キャンペーンが、正しいターゲットオーディエンスと「感情的にコネクト」できたら、かなりの確立で、そのキャンペーンは成功するはずです。そのためには、ターゲットオーディエンスの本音を探る努力とエネルギーが必要で、手間はかかりますが、そのツールやプラットフォームはオンライン・オフラインを問わず、現在は入手可能です。ターゲットの本音の部分がわかれば、どんなメッセージを伝えればいいのか、おのずとわかってくると思います。
私のように、職業柄、広告に対してシニカルな見方をする人間でさえ、時々「うん、わかる、わかる」をつぶやくような広告を見かける時があります。この「うん、うん、わかる」、そんな広告をもっと見たいなと思います。
PS: 私もサンフランシスコの広告代理店に勤務したことのある人間です。改めて、今日はHal Rineyの広告に乾杯、そんな気分です。
先週は、サンフランシスコを代表するAdman(アドマン:こういうクラシックな言い方で広告業界の人を表現するのは、彼が最後という気がします)、Hal Rineyが、75歳で亡くなりました。米国の広告業界は、マジソンアベニューのあるニューヨーク、東海岸を中心に発達しましたが、サンフランシスコを拠点としたRineyは、新たなウエストコーストスタイルとも言うべき、新しいクリエイティブを米国広告業界にもたらしました。50年間におよぶ彼のクリエイティブの世界は、明日を信じるアメリカ的なオプティミズムと飾り気のなさ、さらにロマンを感じさせるスタイルで、数々の名作を世に送り出しています。
そん中でも特に記憶に残るのは、1984年のレーガン大統領の再選キャンペーンの60秒のTVCM「It's Morning Again in America」です。当時アメリカはかなり国としての自信を失いかけていた時で、このCMは新たに人々に希望を与えて、レーガンすなわちアメリカをもう一度信じようと思わせた有名な広告キャンペーンです。