身体を動かすアクティビティには、コンピュータやインターネットなどがもたらす「Instant Gratification(瞬間的な満足や報酬)」というものはなく、すべてに時間と手間がかかります。でも、その分やり遂げた後の達成感は非常に大き く、肉体の痛みや苦しみも含めて、その対価を払う価値はあります。
もうすでに死語に等しい言葉で「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」という表現で、職業を分けていた時代がありました。私は色としても「ブルー」が好きな せいか(笑)、日本でサラリーマンをしていた頃から、ネクタイとスーツを着ないで生活できる人たちを尊敬しており、自分もスーツを着ないで仕事ができるよ うになりたいと思っていました。最近は夫の転職先が船の修理・修復を行う会社で、彼はプロジェクトマネージャーとして毎朝4時半に起きて、20分の自転車 通勤で、6時から仕事をしているため、物理的に身体を動かして対価を得る「ブルーカラー」と呼ばれる職種が身近に感じられます。
夜明け前に出かける夫の後姿を毎朝見送って、日本語で「行ってらっしゃい」と大きな声で叫ぶのが、私の日課となっており、その際に見かける「ブルーカ ラー」ぽい職業であろうと推察される人たちにも、心の中で「毎朝、ご苦労様です」とつぶやいて、見送っています。彼らの肉体を駆使した日々の働きが私たち の社会生活の基本的な部分を支えており、そうした力なしには、日々の暮らしは簡単に立ち行かないと思うと、彼らに足を向けて寝られません。
ブルーカラーを表現する時に良く出てきた「3K(きつい、汚い、危険)」という言葉がありましたが、日々の自分のビジネスを考えると、肉体的には3K状態 ではありませんが、精神的には「2K(きつい、危険)」な状態が日常茶飯事です。ビジネスオーナーとして、危険あるいはリスクを承知で、クライアントから のきつい要求のプロジェクトをとって、実行しているのが、日々の私の仕事です。夜の11時から朝の5時までの6時間の睡眠時間を除いて、ほとんどの時間を 仕事に費やしている私は、「2Kのブルーカラーぽいホワイトカラー」と言えます。
20世紀は、「資本家vs労働者」、「企業vs消費者」、「ホワイトカラーvsブルーカラー」、「オンラインvsオフライン」、「ニューエコノミーvs オールドエコノミー」といった2つの対峙するモノが簡単に分けられた時代だったようです。それ比べて、今の時代は、コンピュータ関連の技術者(プログラ マーやシステムエンジニア)を例にとると、彼らをColor(色:ブルーでもホワイトでもない)やCollar(襟:彼らは襟のないカジュアルな服装で働 いている) で区分けすることもできず、私たちは、「Color & Collar Less Society (カレーレスな社会)」に住んでいると言えます。
複雑な職業や職種が増えて、リモートで仕事をする頻度も多くなり、プライベートな時間に、ワークやビジネスが食い込む確率は日々増大しています。そんな社会ですが、肉体を駆使する労働やアクティビティは、精神をシャープに保つためにも、不可欠な要素です。
「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」、この言葉はタイムレスな真理として、常に肝に銘じています。